健康格差が拡大する理由
カワチ先生は 日本の現状を分析します <さまざまな格差が 健康格差を産む> 所得の格差の大きさを表す「ジニ係数」が 1980年代から上昇していて アメリカは0.41 スウエーデンは0.25 日本は0.38 だそうで 所得が低いと 健康状態が悪い人の割合が増えています また所得だけでなく 労働 教育 地域など さまざまな格差が増えていて これらが目に見えない形で 健康に影響を与え 健康格差が拡大しつつあるそうです たとえば 教育水準と健康は密接に関連していることが 明らかにされています <社会環境の影響が大きい> 一方 アメリカでは 所得の高低に関わらず全体的に不健康で 保険に加入して高い費用を払っている高所得者も その健康水準は低い アメリカとイギリスを比較すると 糖尿病 高血圧などの有病率は 所得差に関係なく いずれもアメリカが高いけれど 喫煙などの生活習慣は両国で変わらない こうした事実は 健康には社会環境の影響が 極めて大きいことを示唆するもので たとえば アメリカに移住して10年経つと どんな人種の人でも 皆 肥満になってしまう 運動を促進する環境 食生活を取り巻く環境などが 大きく影響しているのです <経済格差が不健康を生む> 収入 職業 学歴 財産など さまざまな格差が健康状態に関与します 格差により 住む家 食べ物 医療へのアクセスなどが規定され 一生にわたりさまざまな形で 健康に影響を及ぼすのです 所得 学歴 組織での地位 それぞれが上がれば 死亡率は下がることが 明らかにされています 喫煙などの健康に関連ある行動も 人々が所属する階層により大きな影響を受けます 自分が所属するグループにより 命の長さが決まる 社会格差が命の格差になるのです なかでも影響が大きいのは経済格差です 世代を超えた「格差の負の連鎖」が 起こるからです 親の所得が 子供に与える食事内容 教育の質などを介して 子供の健康に影響を与えています 子供が胎内にいるとき 出生12か月までに親が低栄養だと 肥満になりやすい 幼児期に親が低所得だと 子供は将来 心臓病 糖尿病 うつになりやすい 健康は年月を経て積み上げられるもので 母親のお腹にいた頃 子供の頃 若い頃の影響を 大人になってからも引き継ぐので 社会的経済的影響は 年を重ねるにつれ 健康に大きなインパクトを与えます ここで注意すべきなのが 格差は社会全体の健康状態に 悪影響を及ぼすことです 貧しい人だけでなく 金持ちも影響を受けることになります 所得の多少に関わらず 格差社会のツケは 社会全体 全員で支払うことになる 経済格差により地域の環境が悪化し 治安 病院のインフラなどに悪影響が出て 所得が高い人の医療アクセスに制限が出るなどして 健康に悪影響が出てくるのです 一方で ジニ係数が下がれば 死亡率が下がることが明らかですから 経済格差を縮小すれば 国民全体の命を救うことができます そういう視点からすると 税金などで所得の再配分を行うことは 健康増進に大きな可能性を有する健康政策であると 言えるでしょう 低収入の人ほど 所得が増えれば健康になれます 病院に行ける ワクチン接種が受けられる 栄養のある食事を摂れる からです <格差による社会的ストレスも不健康を生む> 知らず知らずのうちに 他者との経済格差を比較することが 人間にとって大きなストレスになり このストレスが 健康リスクを引き上げます 社会的な地位や名声 社会での目に見えない自分の「順位」も 健康に悪影響を及ぼします サルの社会では 地位が低いと寿命が短くなることが 明らかにされています <どう対処すべきか?> このように 資本主義の社会では 必ず健康格差が発生してしまいます そして その被害を受けやすい 相対的に地位が低い人の健康に対して どのようにアプローチすれば よいのでしょうか? メキシコでは 子供の栄養 保健 教育に特化して 集中的な投資を行いました 低所得の家庭 約2000万世帯に 世帯月収の20%相当額の現金を支給したのです 支給にあたり 子供にワクチン接種する 妊婦健診 定期健診 栄養教室の参加義務化 子供を学校に出席させる ことを条件としました すると 子供の発育状態が改善し 肥満率が減少し 学習能力の向上も見られました こうした対処が必要になってくるのですね
高橋医院