守り神・エストロゲン
女性の病気 特に更年期以後のさまざまな疾患の発症進展には 女性ホルモンが大きく関与します 女性ホルモンには 作用が異なる *卵胞ホルモン(エストロゲン) *黄体ホルモン(プロゲステロン) の2種類があり いずれもステロイド骨格を有しています このうち 生活習慣病の発症や動脈硬化に深く関与するのは エストロゲンです 今日はエストロゲンの作用について解説します <エストロゲンの生理的作用> @女性らしい体を作る のが主たる生理作用で *肌のハリをよくする *髪もツヤツヤにする *脂肪が多めの女性らしい曲線的な体つきを作る といった作用があります 生理後~排卵前にかけて多く分泌され 身体的・精神的に安定した状態をつくり 妊娠を準備するのも大事な作用で 受精卵をしっかり着床させるために 排卵に向けて子宮内膜を厚くします @それ以外にも400種類以上の機能を有しています ごくごく少量で体に多大な影響を及ぼす 非常に繊細なもので 自律神経や感情 骨や皮膚 脳の動きにも 大きく関わっています <女性を生活習慣病や動脈硬化から守る> エストロゲンのさまざまな作用により 高血圧 脂質異常症 動脈硬化 肥満 糖尿病 骨粗鬆症 などの発症を予防します したがって エストロゲンの分泌が減る閉経後の女性は 生活習慣病や動脈硬化に なりやすくなってしまいます @代謝への関与 *脂質代謝を制御し LDL-Cを減らしHDL-Cを増加させ 動脈硬化を抑制します 肝臓のLDL受容体を活性化して LDL-Cを取り込みやすくすることによります *インスリン感受性を高めます *尿酸産生を抑制します @肥満への関与 *内臓脂肪を分解し 肥満を抑制します ですから エストロゲンが減ると 太りやすくなってしまいます *エストロゲンが減少すると ・満腹ホルモン・レプチンが減って 空腹ホルモン・グレリンが増え食欲が増強します ・レプチンの働きが低下すると 内臓脂肪が燃えにくくなり 太ってしまうのです @血管保護作用 *血管内皮細胞機能を改善します *内皮細胞で eNOSという一酸化窒素(NOS)の合成酵素を活性化し NOS産生を増加させ NOSの作用により血管を拡張させます *白血球の接着抑制 血小板凝集抑制作用により 血管内での炎症を抑制します *血管平滑筋の遊走 増殖を抑制します *血管の攣縮を抑えます こうした様々な機能により 血管保護作用を示して 動脈硬化を抑制します @腎臓への作用 *レニン・アンギオテンシン系の抑制 Na排泄促進により 血圧低下作用を示します @骨への作用 *骨の新陳代謝を高め 骨中Caの溶出を抑制します *破骨細胞の過剰な活性化を抑制し 骨が壊れるのを抑制します *骨芽細胞が骨を作るのを助けます このような作用により 骨が脆くなるのを防ぎますが 閉経後はこうした作用が無くなるので 骨のカルシウム量は減少し 骨粗鬆症になりやすくなります 以上の作用により エストロゲンは守り神として 女性の生活習慣病 動脈硬化を防いでいます <その他の作用> @脳を活性化します *神経の成長に関係する物質を活性化する *記憶の中枢である海馬の機能に影響する *神経伝達物質を活性化する *神経細胞を損傷させる物質を弱体化する *脳の活動を高める糖分を効率よく使えるようにする *脳内の血流を増やし神経細胞を活発化する といった作用によります 閉経により こうした作用がなくなってくると アルツハイマー病をはじめとする 認知障害を伴う疾患になる可能性が高くなり 実際に 女性のアルツハイマー発症率は 男性の3倍もあります @さらに *血液凝固作用 *中枢神経(意識)女性化 *皮膚薄化 *自己反応性T細胞のアポトーシスを誘導する といった作用を有します <不都合な作用> @乳がんのリスク エストロゲン製剤を用いた 閉経後のホルモン補充療法を5年以上継続すると 乳がんになりやすいと報告されています エストロゲンは 乳房細胞分裂を強烈に促すため 乳房に悪性細胞があった場合 がん細胞を増殖させてしまいます @心血管系の病気 脳梗塞のリスク 補充療法を受けた患者さんは 骨折や大腸がんが減りますが 心臓血管系の病気 脳梗塞は増加する との報告があります @喘息を悪化させます 閉経後にホルモン補充療法を行う場合は こうした点に注意が必要です
高橋医院