今日は抗ウイルス薬の解説をします

<抗ウイルス薬の作用機序>

ウイルスの感染細胞内での増殖は
細胞への吸着から放出に至る
連続的なプロセスにより行われますが


ウイルスの細胞への吸着から放出に至るプロセスを示す図

抗ウイルス薬は
そうしたプロセスのいずれかを抑制して
ウイルスの増殖や放出を抑え込みます

また 
作用機序が異なる薬剤の併用により
治療効果が増強されることもよくあります


さまざまなウイルス性疾患の治療に
実際に使用されている代表的な抗ウイルス薬を
紹介します


<ヘルペスウイルスの抗ウイルス薬>

アシクロビルという薬が
(DNAポリメラーゼ阻害薬)
ヘルペスウイルスのDNA合成を阻害します

DNAポリメラーゼ阻害薬の作用機序を示す図

しかし 
神経細胞に潜伏感染しているウイルスを
完全に排除することはできません


<インフルエンザウイルスの抗ウイルス薬>

@ノイラミニダーゼ阻害薬

リレンザ タミフル イナビルなどは
既に説明した
ノイラミニダーゼの働きを阻害して
新しくできたウイルスが
遊離 放出されて 他の細胞に感染するのを阻害します

ノイラミニダーゼ阻害薬の作用機序を示す図
ノイラミニダーゼ阻害薬によるウイルス放出阻害の機序を示す図

感染初期に服用すれば発症を抑制でき
発症後1.5日以内に服用すれば
症状のある期間を2日ほど短縮できます


@エンドヌクレアーゼ阻害薬

昨年から利用できるようになった
ゾフルーザ
キャップ依存性エンドヌクレアーゼの阻害により
ウイルス増殖を抑制します

キャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬の作用機序を示す図

リレンザ タミフルとは
作用機序が異なる新しい薬剤です

しかし 実際に使用し始めると
投与初期からウイルスの耐性変異出現が
明らかになりました

リレンザ タミフルが効かない場合の切り札として
期待される薬ですから
慎重な投与が望まれています


@RNAポリメラーゼ阻害薬

新型コロナウイルスへの有効性が
期待されているアビガン

新型インフルエンザが出現したときの
特効薬として開発された
インフルエンザウイルスの増殖を抑制する
RNAポリメラーゼ阻害薬です

アビガンの作用機序を示す図

新型コロナウイルスもRNAウイルスなので 
効果が期待されています


<HIVウイルスの抗ウイルス薬>

AIDSの原因であるHIVウイルスが
CD4細胞に感染し
細胞内で増殖する際に働く

*受容体のCCR5への吸着

*ウイルスのRNAからDNAを作る逆転写酵素

*逆転写でできたDNAを
 感染細胞のDNAに組み込むインテグラ―ゼ

*新たにできたHIVを
 細胞外に放出させるプロテアーゼ

を それぞれ阻害する薬が
治療薬として併用され 
予後の改善に貢献しています

抗HIV薬の作用機序を示す図

しかし 発病を阻止しているだけで
ウイルスを排除しているわけではありません

抗HIV薬の種類を示す表


<B型肝炎ウイルスの抗ウイルス薬>

B型肝炎ウイルスが増殖するときに働く
逆転写酵素を阻害する
ゼフィックス ヘプセラ バラクルードなどが
(核酸アナログ製剤)
治療薬として用いられています

核酸アナログ製剤の作用機序を示す図

使用中の薬剤に耐性を持つ
ウイルスの出現が問題となり
薬剤の変更を余儀なくされることがありますが

多くの場合
長期にわたりウイルスの増殖を
抑えることができます

しかし
ウイルスを排除しているわけではないので
薬の服用を継続しなければなりません


<C型肝炎ウイルスの抗ウイルス薬>

C型肝炎ウイルスのRNAに直接作用して
ウイルスの増殖を抑制して排除する
直接作用型抗ウイルス薬(DAA)
が用いられています

この薬は注射薬でなく経口薬です

直接作用型抗ウイルス薬(DAA)の作用機序を示す図

DAAは RNAへの作用部位により

*RNAポリメラーゼ阻害薬

*NS5A阻害薬

*プロテアーゼ阻害薬

の3種類がありますが

最近は その2種類の合剤を8~12週間飲めば
90%以上の確率で
完全にウイルスを排除できるようになりました

排除できれば
薬の服用を継続する必要はありません


C型肝炎の治療薬の歴史的変遷を示す図


書き手が医者になった頃は
C型肝炎ウイルスが発見された時期で

有効な治療法がなく
患者さんは4週間も入院して
毎日インターフェロンを注射して
副作用で苦しんで
それでもウイルスを排除することは
ほとんどできませんでした

それを思うと まさに隔世の感があります
高橋医院