前回ご紹介した3人の対談
21世紀のエマージングウイルスについて

21世紀のエマージングウイルスについて書かれた雑誌

エマージングウイルスを生む背景にあるのは
環境破壊 温暖化 
熱帯雨林の破壊 無秩序な都市開発などで

森林破壊の様子

これらが野生動物の生態を変化させ
人間と野生動物の距離が縮まったために
起こってきた

人間と野生動物の距離が縮まった様子

いわば文明化により 
新たな疫病が生まれるようになったわけで
移動手段が発達して 
グローバリゼーションが進んだので
余計にパンデミックが起こりやすくなった

パンデミックが起こるのは
昔は100年に1回だったのに
今は10年に1回のペースで起きてしまう

10年に1回のペースでパンデミックが起きていることを示す年表

死亡者数を考えると
エマージングウイルスによるパンデミックは
戦争より怖い

と語られていました


こうした論旨は 見聞きすることが多いですが
この話題を仕切ったのが
対談に参加されていた
長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎先生です

山本先生は 
基礎医学の研究者にしては
とてもさばけた感じで
スタンスを広く討論される方でしたが

朝日新聞に
新型コロナは「撲滅すべき悪」なのか
というタイトルの論説を投稿されています

山本太郎先生

ポストパンデミックの世界を考えるうえでも
とても面白く勉強になったので
ご紹介しようと思います


<文明は感染症のゆりかご>

文明は 
感染症のゆりかごとして機能してきた

現在知られる感染症の大半は
狩猟採集時代には存在していなかった

狩猟採集時代には
人間は100人程度の小集団で移動を繰り返し
お互いの集団は離れていたから
集団内で新型コロナウイルスのような
感染症が発生しても
外には広がれず途絶えてしまった

だから感染症が人間社会で定着するのは
農耕が本格的に始まって人口が増え
数十万人規模の都市が成立してからのこと

農耕する人たち


そして
農耕により得られた穀物を食べるネズミは 
ペストなどを持ち込み
家畜を飼うことで
動物由来の感染症が増えた

はしかはイヌ 
天然痘はウシ 
インフルエンザはアヒル

それぞれを宿主としていたウイルスが
人間に感染して起こった病気である

ウイルスが動物からヒトに感染する様子

こうした内容は
人類史や感染症の歴史の教科書で
必ずお目にかかるので
抵抗なく読むことができました

農耕文化は 
色々なところで色々な人に
けなされまくって
ホントお気の毒です(笑)


<病原体も共生を目指している?>

私たちは感染症を
「撲滅するべき悪」と見がちで
なんとかしてやっつけようとする

細菌に対する抗生物質の発見は
人類の健康に多大な貢献をしたけれど

大量の抗生物質を使用した結果
病原菌を
いかなる抗生物質も効かない耐性菌へと
進化させてしまった

薬剤耐性菌について説明した図

抗生物質 抗ウイルス薬を用いた治療自体が
薬の効かない強力な病原体を
生み出す可能性もある

だから 病原体の撲滅を目指すのは
感染症に対する「行き過ぎた適応」ではないか

多くの感染症は 
人類の間に広がるにつれて
潜伏期間が長期化し弱毒化する傾向がある

病原体のウイルスや細菌にとって
人間は大切な宿主で 
宿主の死は自らの死を意味する

そうならないように
病原体も人間との共生を目指す方向に
進化しているので
人も病原体に対して
撲滅だけでなく 
共生・共存を目指す方が良いのでは?

山本太郎さんの著書


抗生物質の乱用については
書き手も日常の診療で注意していますが
病原体の撲滅を目指すことを
「行き過ぎた適応」と言われると
ちょっと抵抗を感じます

確かに「清潔すぎる環境の弊害」があるのは
事実でしょうが
抗菌薬や抗ウイルス薬の適切な使用は
大切でしょう

それから
ウイルスが人との共生を目指しているという
という考え方もよく見聞きしますが
ちょっと合目的的すぎないかなと 
いつも思います


ただ 昨今の腸内細菌叢の研究などで
善玉腸内細菌が人の代謝を改善していることが
明らかになったことを鑑みると
細菌やウイルスとの共生・共存というスタンスは
理解できる気もします
高橋医院