一昨年12月から昨年3月にかけて
NHKで月1回のペースで
「食の起源」
というシリーズ番組を放映しました

番組が目指すのは
人類の進化と食生活の変化の関連を検討すること

ヒトは 糖質 脂質 塩 酒と 
どのように関わってきたか?

ヒトの体のどのような進化が
どんな風に食の嗜好に影響を及ぼしたか?

そうしたことを背景に
現代人は何をどう食べたらよいか
サゼスチョンする

シリーズのコンセプトは そんなところでしょうか?

TOKIOの皆さんがナビゲーターになり
毎回 楽しく進行していきました

食の起源の宣伝ポスター

このブログでも
食事や栄養と健康に関する話題を
たくさん紹介してきましたから
それらを思いだしながら
番組を見て勉強になったことを紹介しようと思います


第1回のテーマは「ご飯」

まず 人 特に日本人を
ご飯好きにさせたエピソードが紹介されます

@祖先はでんぷんを食べていた

最近は 低糖質ダイエットブームで 
糖質が敬遠されていて

石器時代のヒトの祖先は
肉を食べていて糖質なんて食べていなかった
という理由で 
糖質にケチをつける風潮も見受けられます


アメリカでは「パレオダイエット」と呼ばれる
肉食中心のダイエット法が
人気を集めているそうで

「石器時代は 人類は狩りをし 
 肉を主食にしていたので
 ヒトの体は肉が主食の生活に適応しているはず」

という考えのもと
糖質は摂らず肉だけ食べて
ダイエットしようと励んでいます

パレオダイエットについて説明する図


しかし 石器時代の祖先は 
糖質を食べていたことが
最近の考古学の研究で明らかにされてきました

石器時代の祖先の骨の化石の歯石を 
顕微鏡で観察すると
でんぷんの粒子が多数みえてきたのです

最新のさまざまな研究を総合すると
摂取カロリーの5割以上が
糖質だったとの推測もあるようで

祖先の主食が肉というのは間違いで
生き抜くための主食は
常にでんぷん質のものだったと考えられる
と研究者は語ります


@祖先がでんぷんを食べるようになった理由

はるか昔 ヒトの祖先は
木の上で果実などを食べて
平和に暮らしていましたが

700万年前
火山の大爆発が原因の気候の大変動で
地球全体が寒冷の時代になると
森が縮小して果実が減り

祖先は背に腹は代えられず
食べ物を求めて地上に降り立ち 
二足歩行の人類が誕生しました

しかし 祖先が得られたのは
他の動物があまり食べない 
殻が硬い木の実や
地面を掘らないと手に入れられない地下茎でした

木の実 地下茎

生の木の実や地下茎は 
決しておいしくありませんでしたが
エネルギーのもとのでんぷんが
多く蓄えられていたので
か弱い存在だった祖先は
それを食べて何とか生き延びたのです


@デンプンを加熱すると美味しくなった

200万年前 進化したホモ・エレクトスは
火を使って木の実や地下茎を調理して 
食べ始めました

火を用いて調理するホモ・エレクトス

すると あんなに不味かったのが 
美味しくなったのです!

でんぷんを顕微鏡で見ると
固い結晶構造をしていて
食べても私たちの体は 
ほとんど消化できませんでしたが

加熱すると固い結晶構造がほどけ
ブドウ糖という
体内でエネルギーのもとになる物質に
分解されたのです

でんぷんが分解される様子

こうして分解された糖が
舌にある味蕾と呼ばれる味覚センサーに触れると
その刺激が脳へと伝達され
「甘くておいしい」という喜びを感じさせました

生きるために食べていた
味がいまひとつで消化も良くない木の実や茎でしたが
火との出会いによって でんぷんが糖に分解され
人類の命を支えるエネルギー源となり
しかもおいしく食べられるようになったのです


@糖の摂取により脳が発達した

腸で吸収されたブドウ糖の多くは 
脳に運ばれました

脳は 体内でいちばんエネルギーを必要とし
基本的にブドウ糖しか利用できない臓器だからです

木の実などを生で食べていた頃は
得られるブドウ糖の量が少なかったので
脳の神経細胞は 
それを細々と吸収するだけでしたが

でんぷんの加熱調理によって
大量のブドウ糖が脳に送られてくるようになると
それを余すことなく吸収しようと
神経細胞の活動が活発になり増殖し始めたのです

それを裏付けるように
ホモ・エレクトスが火を使って調理を始めた頃を境に
脳が急速に巨大化していったことが
明らかにされました

脳の大きさの経時的変化を示すグラフ

太古の昔には か弱くて
他の生き物に脅かされて生きていたヒトの祖先ですが
でんぷんを加熱調理して糖を得たおかげで
巨大な脳を手に入れることができ
高い知性でさまざまな道具を生み出し
仲間との結束も強めて生きていくための集団を形成し
ついに生態系の頂点におどり出ることになります

なるほど ヒトの知性の源である脳は
木の実や茎のデンプンが
加熱処理されて生まれた糖により
発達することができたのですね

こうした重大な事実をもとに 
糖の逆襲が始まります!
高橋医院