食の起源

最終回のテーマは 美食

美食をテーマにした番組の広告
 
どうしてヒトはグルメになったか?

健康を害してまで 
美味しいものを欲してしまう人間

でも現代は 過剰な食欲が病の原因になっています

なぜ生きるためだけでなく
美味しさを楽しむために食べたくなる
美食モンスターのような生き物になってしまったのでしょう?


@苦味も美味しい

元来ヒトは 苦味は毒と認識していました

舌の苦味センサーで苦味を感じると
脳の味覚野に情報が送られ 反射的に毒と認識され 
食べないように指令が出ていたのです

脳で苦味が毒と認識されている様子

しかし あるときヒトは
今まで排除していた苦味のある物の中に
栄養がある食材も少なくないことを発見しました

そうした経験の積み重ねが
苦味を「積極的に食べたくなる味」として
記憶していくことにつながったと考えられます

こうして 脳の情報指令部・眼窩前頭皮質が
過去の記憶を参照にして
毒でない栄養がある苦味と判断すると
美味しいもの 食べて良いものとして認識され
食べるようになったのです

脳が過去の記憶を参照に一部の苦味を美味しいものと認識するようになった過程を説明する図

生きるために
苦味に臆せず栄養のあるものを食べられた祖先は
生存のチャンスを高めていきました

やがて苦味は 食欲を促す妙薬ともなります

苦味をおいしさと結びつけて記憶する能力

それこそが人類が手にした
美食につながる第1の特殊能力で
これは他の動物にはない能力と言えます

苦味をおいしいと思うことで
他の動物にはない感覚を手に入れて
さらに摂取できる食べ物のレパートリーを
広げていったと考えられます


@苦味遺伝子

苦味を敏感に感じることができる「苦味遺伝子」を持つ人は
苦味センサーの感度が高まり
より敏感に毒を感知して瞬時に避けられます

多くのフードコーディネーターやソムリエさんは
優秀な苦味遺伝子を有しているそうです

さまざまな苦味遺伝子を分類した図
苦味遺伝子の構造を示した図


苦味ですか!

個人的には
「大人になってくるとわかる味」という気がしますが
苦味が美食へのスタートというのはなかなか面白いです!

ご先祖様が最初に
「苦くても食べた方が良い」と思った食べ物は
なんだったのでしょう?
そちらに興味がわきます!(笑) 


@嗅覚の重要性

ヒトの祖先は
恐竜時代には身を守るために夜行性で
そのため嗅覚がいちばん重要な感覚でした

恐竜が絶滅すると
昼間に行動するようになったので
嗅覚よりも目を武器に生きるように進化し

顔の骨格も変化して
それまで隔てられていた口と鼻が
つながるようになりました

顔の骨格の経時的変化を示す図

口の中で食べ物をかむと
食べ物からさまざまな香り成分が大量に立ち上り
それが一旦 喉の入口付近にたまります

それが 鼻から息を吐く瞬間 
空気の流れに乗って喉から鼻の内部へと一気に流れ込み
鼻の内部にある嗅覚センサーにどんどんぶち当たる

さまざまな香りが嗅覚センサーにどんどんぶち当たっている様子

味を感じる舌の味覚センサーはおよそ100万個なのに対し
嗅覚センサーはその10倍のおよそ1000万個で
1兆種類の匂いを嗅ぎ分けられます

嗅覚センサーの種類の多さを示すグラフ
嗅覚と味覚の脳への伝わり方の差異を示す図


舌で感じる味の情報より
桁違いに多い香り成分の情報が
脳の情報司令部に押し寄せることになります

脳は 舌からの情報より鼻からの情報で
美味しさを感じるようになり
人間が感じる食のおいしさにとって
味覚よりも嗅覚の方がはるかに重要になりました

味覚よりも嗅覚の方がはるかに重要になったことを示す図

脳は美味しさを感じるとき
大部分を嗅覚からの情報に頼っていて
舌などの感覚も大事なものの補助的なものとなっています

その結果 人類は
味よりも食べているものの香り=風味を
おいしさと強く結びつけて記憶するようになりました

舌が感じる栄養成分よりも
“おいしい風味”によって
過剰な食欲をかき立てられる美食モンスターが誕生したのです

ヒトが風味の記憶により美食モンスターになったことを示す図


@火の調理の影響

およそ200万年前に 祖先が火で調理をし始めました

火で加熱された食材からは
さまざまな香り成分が
さらにふんだんに立ち上るようになり
それを食べると口から鼻の内部にかけて
まさに食べ物の風味の洪水のような状態になる

これが鋭敏な嗅覚センサーにどんどん感知されて
激しく脳を刺激するようになりました

ヒトは 食材の加熱という進化により
味よりも風味こそが美味しさと感じる能力を手にしたのです

加熱食物が産生する風味が脳を刺激することを示す図


なるほど 嗅覚ですね

食べ物の美味しさを感じるときの嗅覚の重要性については
以前 飛行機の機内食を取り上げたテレビが
印象に残っています

飛行機の機内食を美味しくないと感じるのは
気圧の関係で嗅覚が鈍っているからで
食事前に鼻を洗浄すれば
同じ機内食でも美味しく感じるはずという内容で

実際に鼻洗浄により
機内食が美味しいと感じる人が増えていました

ソムリエさんや利き酒師の方も
口をすうーっとすぼめて
口腔から鼻腔に香りを移動させていますね

でも その起源が
ご先祖様の顔の骨格の変化にあるとは
知りませんでした!
高橋医院