新型コロナウイルス感染で
いちばん怖いのは
急速に病態が悪化して 
残念な結果に至る患者さんが
少なくないことです

多くの方が快方に向かうのに
どうして一部の方は
重症化してしまうのでしょう?

その疑問に対する答えが 
最近 少しずつ見えてきました


<重症例は多臓器不全をきたす>

まず 新型コロナウイルスは
一部の患者さんでは 肺炎にとどまらず
多臓器不全をきたすことが
明らかになってきました

多臓器不全とは
心臓 肺 脳 腎臓などの多くの臓器が
同時にダメージを受ける病態です

多臓器不全について説明した図

先日 若くして亡くなられた力士さんも
死因は多臓器不全と報じられました


患者さんを治療している最前線では
新型コロナウイルスで重症・重篤となる場合は
単なる肺疾患でなく
多臓器不全を来す全身性疾患である
という認識が定着しつつあるようです


では どうして
多臓器不全をきたしてしまうのでしょう?

その鍵は 
「炎症」「血栓」 
のふたつにあるようです


<高度な炎症・サイトカインストーム>

新型コロナウイルスの重症化症例では
肺だけでなくその他の臓器にも
高度の炎症が存在します

IL-1β IL-6 TNFαをはじめとする
炎症性サイトカインの
有意な上昇が確認されていて

さまざまな炎症性サイトカインが上昇していることを示す図表

以前にも説明した
サイトカインストームという
免疫反応が荒れ狂う状態となり
病状を急速に悪化させているのではないかと
推察されています

サイトカインストームについて説明した図
若年層に炎症性サイトカインストームが多いことを説明した図

そこで
サイトカインストームにおいて
中心的な役割を果たしているIL-6を抑える
IL-6阻害薬(商品名・アクテムラ)を用いた
重症例の治療が試みられていますが

IL-6が中心的役割を果たしていることを示す図
IL-6阻害薬の作用機序を示す図

有効性について結論が出ておらず
プラセボ対照ランダム化比較試験の結果を
待っている状況です


しかし 高度な炎症は
サイトカインストームを起こすだけでなく
血液凝固系の過剰な活性化を引き起こし
微小血栓を作らせ
それが悪さをしているのではないか
という仮説が提唱されています


<血栓形成傾向>

中国では 重症化して亡くなられた患者さんの
病理解剖が行われたことがあり
全身の微小血管内に
血栓が存在していたそうです

また 過剰な血栓形成傾向を示す指標である
血小板数 Dダイマー 血液凝固時間などの
有意な上昇が
ICU入室 死亡などの予後不良に関連することが
世界各国の複数の施設から報告されています

血小板数 Dダイマー 血液凝固時間が予後不良因子であることを示す図表

どうして血栓が形成されるかというと
病巣で生じた過度の炎症により
血管内皮細胞ではTFと呼ばれる
血液凝固を活性化するタンパク質が活性化し
これが血栓形成につながる可能性が
考えられています

活性化されたTFにより血栓が形成されることを示す図


また 血管内皮細胞には
新型コロナウイルスの受容体のACE2が
高発現していることも
内皮細胞傷害 TF活性化に関わるのではないかと
推測されています


こうしてできた微小血栓は
肺 心臓 腎臓 脳 深部静脈などに詰まり
肺塞栓 心筋梗塞 急性腎不全 
脳梗塞 血管炎といった
全身諸臓器の多臓器不全を引き起こします

微小血栓が全身諸臓器の多臓器不全を引き起こすことを示す図

第一線で治療されている医師たちからは
重症化する患者さんでは
血液凝固が驚くほど広範囲で急速に起こり
短時間での急激に増悪してしまう
との声が聞かれます

また オランダからは
ICUに入室した患者さんの49%に
肺塞栓 脳梗塞を認め
血栓があると 致死率が5.4倍も上がることが
報告され

中国からは
急死した患者さんの71%で
DIC(全身臓器に微小血栓が詰まる病態)が起こり
生存した患者さんでは DICは0.6%だけだったと
報告されました


では この血栓形成を抑制したら
重症化を防げるでしょうか?
高橋医院