日本ではなぜ
新型コロナウイルスによる死亡者が少ないか?

その理由のファクターXの候補のひとつが
交差免疫の存在です


以前 このウイルスの抗体の不思議を解説したとき
普通のウイルス感染では
感染後数週間してから出来てくるIgG抗体が
新型コロナウイルスでは
感染してすぐに認められることがあること
ご紹介しました

新型コロナウイルス感染ではIgG抗体が感染してすぐに認められることがあることを示すグラフ

どうしてそんなことが起こるのか?

その理由として考えられているのが

新型コロナウイルスに似た風邪ウイルスに
過去に感染した人が
新型コロナウイルスに感染したときに
いきなりIgG抗体が出来てくるのでは?

という機序です

交差免疫について説明する図

こうした現象を
新型コロナウイルスと
過去に感染した風邪ウイルスの
交差免疫と呼びますが

この仮説が
アメリカの免疫・アレルギー研究で有名な
ラ・ホイヤ免疫研究所で科学的に証明されて
その成果が
格式高い基礎系科学雑誌のCellに発表されました

Cellに発表された論文

彼等は
新型コロナウイルスに感染後
20~35日間経過した患者さんの
リンパ球や血清を用いて研究を行い

まず 感染者は 
新型コロナウイルスのSタンパクに対する
IgG IgM抗体を有すること

感染者はSタンパクに対するIgG IgM抗体を有することを示すグラフ

新型コロナウイルスの
Sタンパク 非Sタンパクを認識する
CD4+Tリンパ球を有することを 
明らかにしました

感染者はSタンパクを認識するCD4+Tリンパ球を有することを示すグラフ

CD4+Tリンパ球は
獲得免疫反応を起こさせる重要な免疫細胞で

感染者が有するCD4+Tリンパ球は
新型コロナウイルスの
Sタンパク 非Sタンパクの刺激で
免疫反応を活性化させるIL-2 IFNγなどのサイトカインを
充分に産生していました

サイトカインを産生することを示すグラフ

また CD4+Tリンパ球は
Bリンパ球による抗体産生を手助けしますが

新型コロナウイルスを認識する
CD4+Tリンパ球の数は
新型コロナウイルスに対する抗体の量と
正の相関を示しており
抗体産生に関わっていることが明らかにされました

CD4+Tリンパ球が抗体産生に関わることを説明する図
CD4+Tリンパ球の数が抗体の量と正の相関を示すことを示すグラフ
一方 ウイルス排除に関わるCD8+Tリンパ球は
非感染者に比べて感染者において
新型コロナウイルスの
Sタンパク 非Sタンパクを認識するものが
有意に増加していて

Sタンパク 非Sタンパクを認識するCD8+Tリンパ球が増加していることを示すグラフ

それらのCD8+Tリンパ球は
新型コロナウイルス排除に関わる
IFNγ GzB TNFαなどを
産生していました

CD8+Tリンパ球がIFNγ GzB TNFαなどを産生していることを示すグラフ

また 感染者では
新型コロナウイルスを認識する
CD4+Tリンパ球 CD8+Tリンパ球が
両方とも充分に存在することが示されました

CD4+Tリンパ球 CD8+Tリンパ球が両方とも充分に存在すること示すグラフ

そして最後に 
いちばん興味深い点ですが

数年前に普通の風邪コロナウイルスに感染したことがあり
新型コロナウイルスには感染していない人では
新型コロナウイルスの
Sタンパク 非Sタンパクを認識する
CD4+ CD8+Tリンパ球を有している場合があることが
明らかにされました

数年前に普通の風邪コロナウイルスに感染したことがあり新型コロナウイルスには感染していない人では新型コロナウイルスを認識するCD4+ CD8+Tリンパ球を有している場合があることを示すグラフ

以上のことから

新型コロナウイルス感染者は
新型コロナウイルスの
Sタンパク 非Sタンパクを認識する
CD4+Tリンパ球と抗体 CD8+Tリンパ球を
充分に有していること

まとめを示す表

新型コロナウイルスに感染したことがないけれど
過去に普通の風邪コロナウイルスに感染したことがある人の

50%では
新型コロナウイルスのSタンパク 非Sタンパクを認識する
CD4+Tリンパ球が存在し

20%では
新型コロナウイルスのSタンパク 非Sタンパクを認識する
CD8+Tリンパ球が存在すること

が示されました

まとめを示す図


この研究は 新型コロナウイルスを構成する
抗原となるタンパク質を人工的に合成して
試験管内でそのタンパク質で感染者のリンパ球を刺激して
反応を見るという方法を主に用いていて

書き手も昔は似たような実験をしていたので
とても懐かしいです(笑)


新型コロナウイルスでは抗体が持続しないかもしれない
といった疑問が呈されていますが
感染者の体内には
抗体を作り ウイルスを攻撃するリンパ球が存在していて
刺激に応じて反応することが示されたので
安心できる結果だと思います

そして やはり興味深いのは
普通の風邪コロナウイルスに
感染したことがある人の一部は
新型コロナウイルスに反応するリンパ球を有していることで

まさに
普通の風邪コロナウイルスと新型コロナウイルスの間に
交差免疫が存在することが明らかになりました

こういう人が 
新型コロナウイルスに感染したときに
早期にIgG抗体が出現してきて
ウイルス排除ができるようになるのか
とても興味深い

感染しても軽症ですんでいる人は
もしかしたらそういう人たちかもしれません

軽症者が
普通の風邪コロナウイルスに対する抗体を有しているか
検討してみると面白いと思います
高橋医院