新型コロナウイルスは
1カ月に2ヶ所ほどのスピードで
変異を続けていて

最近の日本では
3月~4月にかけて流行したヨーロッパ株から
6ヶ所変異した東京株が流行していることを
紹介しました

東京株が流行していることを示すグラフ

東京株では 
ゲノムのどの部位に変異が起きているか
明らかにされていませんが

これまでの変異した部位を検討すると
ウイルスが細胞に侵入する際に働く
スパイク(S)タンパクを作る部位での変異が多いので
ウイルスの感染性などに変化が起きないか
危惧されること
以前にご紹介しました

スパイクタンパクが細胞侵入に働くことを示す図

スパイクタンパクを作る部位での変異が多いことを示す図" width="960" height="720" />


しかし 
「ウイルス変異に過度に神経質になる必要はない」
という趣旨の記事が
ナショナル・ジオグラフィックに掲載されていました

ナショナル・ジオグラフィックの記事

7月初旬の権威ある基礎医学の雑誌のCELLに

*新型コロナウイルスの
 スパイクタンパクを作るゲノムの一部が
 D614型からG614型に変異している

*この変異は武漢株には10%ほどしかなかったが
 5月には80%で見られるようになった
この変異により
 ウイルスが人の細胞に結合しやすく
 細胞内に侵入しやすくなった可能性がある

という内容の論文がでたのですが

CELLに掲載された論文

この意見に 研究者の間で
多くの疑問の声が上がっているというのです

論文では
レンチウイルスという
新型コロナウイルスとは異なるウイルスに
D614型スパイクタンパク G614型スパイクタンパクを
それぞれ発現させた疑似ウイルスを作成し
試験管内でACE2を発現した培養腎細胞にふりかけたところ
変異したG614型の方が感染力が強かったことを示し
上記の推論を導いているのですが

G614型の方が感染力が強いことを示す図

イエールのウイルス学者は
実験室での感染力と実際の感染力には大きな違いがあり
感染力の強さは
免疫細胞への抵抗力 飛沫のなかで生き延びる力など
多くの要因によって規定されるものなので
1ヶ所のゲノム変異だけでそうした結論を出すのは
飛躍が過ぎると批判しているそうです

また 世界各国で行われた研究で
D614変異を含み 感染力に影響する変異は
見つかっていないことが明らかにされています

さらに G614型のウイルスは
重症化率や致死率を増加させている事実も
確認されていません

これらのコメントは 
同じ雑誌にPreviewという形で掲載され

CELLに掲載されたPreview
こうしたコメントを受け 論文の筆者らは
実験の結果が人での感染力について何を意味しているかは
わからない
と述べていますが

しかし 世界中で
G614型がD614型より優勢になっていること世界中でG614型がD614型より優勢になっていることを示す図

この変異がウイルスにとって
何らかの利点を及ぼしている可能性は否定できない
とも述べているそうです


スクリプス研究所の免疫学者は
確かにウイルスが変異を繰り返すけれど
そのほとんどが何もしない可能性の方がはるかに高い
と指摘します

ミシガン大学の医学史家は
ウイルスが変異によって凶悪化するという筋書きは
テレビのSF番組のようで
人々の関心を集めるのにうってつけだが

ウイルスが変異によって凶悪化すると書かれたポスター

これまでのパンデミックも含め
そうした筋書きを裏付けする科学的証拠は何ひとつない
と意見を述べられているそうです

HIVも麻疹ウイルスも新型コロナウイルスも
変異を起こしやすいRNAウイルスだけれど
これまでに感染様式を変えたウイルスは知られていない
という指摘もあります

但しウイルスの変異により
免疫システムに認識されにくくなることはあるため
インフルエンザウイルスのように
ワクチンの有効性に影響を及ぼすことはあり得ます

ということで この記事は最後に
現在のパンデミックが今後どうなっていくかは
ウイルス自体の特性よりも
ウイルスの拡散を防ぐための
私たちの行動変容にかかっている
と強調して稿を終えています

確かに私たちは
ウイルスにとっては通常の変化にすぎない変異を
感染力や毒性の変化に結びつけて
過度に反応し過ぎなのかもしれません

変異を注意深く検証していくことは大切ですが
その結果に一喜一憂するのではなく
日々の生活での地道な対応を続けていく
ということですね

勉強になりました!
高橋医院