新型コロナ・嗅覚と味覚の異常
新型コロナウイルスが猛威を振るい始めた4月頃 阪神の藤浪選手らが 嗅覚の異常の自覚を契機に 新型コロナウイルス感染が発覚し とても大きな話題になりました それ以来 嗅覚障害や味覚障害が注目されています 当院で新型コロナウイルス陽性と診断された1例目の患者さんも 最初に微熱があり 4~5日後に臭いがしなくなり PCR検査を依頼したら陽性でした 4月には アメリカ耳鼻咽喉科・頭頸部外科学会が 嗅覚の喪失や低下のほかに症状がないけれど PCR検査で新型コロナウイルス陽性と診断される人の 報告が増えたことを受けて 無嗅覚症やそれに関連した嗅覚障害が 新型コロナウイルスの診断に利用できるかもしれない との声明を出しました 日本耳鼻咽喉科学会は 3月末に 急に臭いや味の異常を感じるようになった場合は 新型コロナウイルス感染症である可能性があるので 2週間は不要不急の外出を控えるようにと お知らせとお願いを出しました その後 感染の拡大とともに 突然の嗅覚 味覚異常を自覚される 新型コロナウイルスの患者さんの報告が増え その頻度は 報告により5~98%とばらつきがあるものの 概ね30%以上と高頻度であることが 明らかにされています ウイルス感染症にともなう嗅覚異常は SARS ライノウイルス パラインフルエンザなど 他のウイルス感染でも起こりますが 新型コロナウイルスの嗅覚障害で特徴的なのは 鼻詰まり 鼻汁などの症状を伴わず 突然 重度の障害が現れることで 他のウイルス感染症に比べて 高頻度に起こることが明らかにされました 発熱 咳 などの症状がなくても 唯一の症状として 感染初期から認められることが 少なくありません 7月以降になると 急激で高度の味覚障害を認める場合は 他の症状がなくても 新型コロナウイルス感染が強く疑われるので 患者さんを隔離し 可能な限り早期に受診 検査すべき というコンセンサスができるようになりました 現状では 嗅覚障害は 新型コロナウイルス感染症の一般的な症状として 認知されるようになり PCR検査を受けた人の中で 陽性になった人は陰性になった人に比べて 27倍も嗅覚障害が多く 発熱よりも嗅覚障害の方が 新型コロナウイルス感染症の予測に役立つと 考えられています 日本でも8/3に厚労省から 「初期症状として 嗅覚障害 味覚障害を訴える患者さんが明らかにされ こうした症状を呈している方に対しては 年齢を問わず 速やかに外来受診を促し 検査の実施に向けて積極的な対応をお願いします」 という事務連絡が出され 嗅覚障害 味覚障害が 新型コロナウイルスの初期症状として正式に認可されました 但し レジストリ研究の中間報告によると 日本で症状が見られるのは 17%と諸外国に比し少ないようですが この研究で解析された症例が診療された頃は 嗅覚障害 味覚障害が まだ新型コロナウイルスの症状と認知されていなかったので 今後は増える可能性があると指摘されています こうした嗅覚障害のある患者さんの多くは 数週間以内に回復しますが 長期的に嗅覚を失う場合があるかどうかはまだ不明です また 嗅覚障害の有効な治療法はありません 新型コロナウイルスは 鼻腔 口腔から侵入し 気道を経て肺に到達しますが 味を感じる細胞や臭いを感じる細胞の周囲には 新型コロナウイルスの受容体である ACE2の発現を認めるので 局所の炎症やウイルスの直接的な作用により 嗅覚障害 味覚障害が生じると推測されています このように 急激に生ずる嗅覚障害 味覚障害は 新型コロナウイルス感染の重要な初期症状として ときには唯一の症状として現れることも少なくないので 臭いや味に異常を感じた患者さんは なるべく早めに受診するようにしてください
高橋医院