新型コロナ・なんて嫌らしいウイルスなのでしょう!
新型コロナウイルスによるインターフェロン産生抑制 の話を続けます 研究チームはまず 新型コロナウイルスが作るさまざまなタンパク質の中から ヒトのmRNAに結合する10種類のタンパク質を同定しました 図には 新型コロナウイルスのどのようなタンパク質が ヒトのどのようなmRNAに結合するかが示されています そして mRNAに結合するそれぞれのウイルスタンパク質が 結合によりどのような働きをしているか検討しました @NSP16によるmRNA形成の抑制 最初にNSP16というウイルスタンパクの機能を調べると NSP16は mRNAの前駆体であるU1 U2というゲノムに 結合することがわかりました そして U1 U2からmRNAが形成されるのを 抑制することがわかりました NSP16がU1 U2に結合すると SplicingによりmRNAが形成されません mRNAが作られないと 当然 タンパク質はできません 実際に 細胞に新型コロナウイルスが感染して NSP16が存在していると インターフェロンが産生されません @NSP1によるタンパク質形成の抑制 次にNSP1というウイルスタンパクの機能を調べました NSP1は 細胞内に存在するタンパク質産生工場であるリボゾームに 結合することがわかりました NSP1がリボゾームに結合すると mRNAがリボゾーム内に入ることができません ですから リボゾーム内でmRNAからタンパク質が翻訳できなくなります タンパク質が作れなくなるのです リボゾームからNSP1が乖離すると タンパク質は作られるようになります 実際に 細胞に新型コロナウイルスが感染して NSP1が存在していると インターフェロンが産生されません @NSP8/9によるタンパク質の細胞内輸送 細胞外分泌の抑制 最後にNSP8/9というウイルスタンパクの機能を調べました リボゾームで作られたタンパク質は 細胞内輸送タンパクと結合して細胞内を移動し 細胞膜に到達して細胞外に放出されますが NSP8/9は 細胞内輸送タンパクのSRP複合体と タンパク質との結合を邪魔することがわかりました リボゾームで出来たばかりのタンパク質にNSP8/9が結合するので SRP複合体が結合できず 細胞内を輸送することができません 実際に 細胞に新型コロナウイルスが感染して NSP8/9が存在していると リボゾームでできたタンパク質は細胞膜に到達できず 細胞外に放出されません このような機序により 細胞に新型コロナウイルスが感染すると インターフェロンは細胞外に分泌できなくなり 細胞内で分解されてしまいます こうした インターフェロンの *mRNAの形成 *mRNAからタンパク質への翻訳 *細胞外への放出 という3つのプロセスを抑制することで 新型コロナウイルスはインターフェロンの産生を抑制しています なんという 悪賢いウイルスなのでしょう! @3つの抑制プロセスが相乗作用を示す さらに厄介なのは この抑制作用が ウイルスが感染してインターフェロン産生系が刺激される前の より早期の段階から発揮されることです 細胞がウイルスを認知する受容体の働きにより インターフェロン産生を開始する前に既に抑制してしまうのです また 各段階の抑制作用は通常の5~10倍程度ですが 3つのプロセスが協調すると 通常の1000倍以上の相乗的な抑制機能が示されます 本当に タチが悪いウイルスです! このような新型コロナウイルスのタチの悪さを理解し 早期から補助的にインターフェロンを投与したリ 将来的には この3つのプロセスをそれぞれ抑制するような薬の開発が 望まれるところです それにしても この研究は デザインも結果も美しいです! とても格好良い研究だと感服しました!
高橋医院