新型コロナウイルス感染症の重症化に
ウイルス感染の際に体内で産生され
抗ウイルス作用を示すインターフェロンの不足が
関与していることが示唆されています
どうして新型コロナウイルスに感染すると
体内でインターフェロンが不足し
抗ウイルス作用が発揮されないのか？
前回は 新型コロナウイルスそのものに
体内でのインターフェロン産生・放出を抑制する働きがあることを
紹介しましたが
新型コロナウイルスに感染した体内の方でも
インターフェロンの産生や働きを抑制する機構がありそうだ
という研究成果が9月にScienceに相次いで発表されました
そのひとつが
新型コロナウイルス感染者で見られる
インターフェロンαに対する自己抗体に関する研究です
全世界の987人の新型コロナウイルス感染者を検討すると
特に重症者を中心に10.2％にあたる101人で
インターフェロンαの働きを阻止する自己抗体が存在する
というのです
しかも この自己抗体は 発症時に既に存在しています
インターフェロンαに対する自己抗体は
663人の軽症者 無症候者では認められず
1227人の健常者では4人でのみ認められました
さらに興味深いことに
インターフェロンαに対する自己抗体を有しているのは
女性より男性に多かったそうです
データを詳しく紹介すると
＠インターフェロンαに対する自己抗体は
重症者では認められますが
無症候者 健常人では認められません
また
＠インターフェロンαに対する自己抗体が存在する患者さんでは
インターフェロンα活性が抑制されています
さらに
＠インターフェロンαに対する自己抗体が存在すると
細胞への新型コロナウイルスの感染が盛んになります
＠インターフェロンに対する自己抗体が存在する患者さんでは
血中のインターフェロンαが低値を示します
そして
＠インターフェロンαに対する自己抗体が陽性の重症者は
男性 65歳以上で多く
自己抗体が陰性の無症候性者は
女性 65歳未満で多い
こうした傾向には
統計学的有意差が認められています
とても興味深い結果です
インターフェロンαに対する自己抗体が
男性 高齢者で認められたことから
男性高齢者の予後の悪さに
インターフェロンαに対する自己抗体が
関与している可能性が示唆されます
またこの論文の筆者らは
考察で次のような興味深いことを指摘しています
まず 新型コロナウイルス感染者の10％程度で認められた
インターフェロンαに対する自己抗体は
新型コロナウイルス感染により
初めて存在が明らかになったものです
つまり それまでにかかったことがある他のウイルス感染症で
インターフェロンαに対する自己抗体の存在により
病態が悪化したことはなかったと推測されます
ですから
新型コロナウイルス感染は他のウイルスに感染と異なり
感染初期に体内で産生される少量のインターフェロンαが
その感染防御に大きな役割を果たしていると考えられます
治療の面では
インターフェロンαに対する自己抗体を有している患者さんが
病気から回復した際に
その血漿を他の患者さんの治療に用いることがないように
注意しければなりません
インターフェロンαに対する自己抗体の有無は
感染早期に検討されるべきものでしょう
インターフェロンαに対する自己抗体を有する患者さんの治療は
自己抗体を除去する血漿交換治療
自己抗体では作用が抑制されないインターフェロンβの投与
などが考慮されるべきと推奨しています
個人的に興味深いのは
どうして男性に自己抗体陽性者が多いのかという点です
一般的には 女性の方がさまざまな自己抗体を有していて
それが女性に自己免疫疾患が多い理由とされていますが
インターフェロンαに対する自己抗体はその逆です
どうしてなのかな？
それから どうしてインターフェロンαに対する抗体だけで
インターフェロンβやインターフェロンγに対する抗体は
存在しないのでしょう？
興味深いけれど 不思議です
学会場で質問をしたくなってしまいます（笑）
