新型コロナウイルスに感染した体内での
インターフェロンの産生や働きを抑制する機構に関する
研究の第2弾

この研究は

前回紹介した論文とほぼ同じ研究者たちにより
9月のScienceの同じ号で発表されました

新型コロナウイルス感染の重症者では
インターフェロンに関連する遺伝子の異常が認められる
というのです

インターフェロンに関連する遺伝子の異常が認められるという論文の表紙

筆者らはまず
ウイルス感染により体内でインターフェロンが産生される際に
重要な働きをする分子の遺伝子
に着目しました

体内にウイルスが感染してくると
インターフェロン産生を誘導するいくつかの反応が起こります

インターフェロン産生を誘導するいくつかの反応を示す図

プラズマ樹状細胞(pDC)という
ウイルスなどの異物を認識し 
自然免疫反応を起こさせる免疫細胞では
インターフェロン産生 情報伝達に関わる分子のIRF7が活性化され
インターフェロンが産生され始めます

一方 ウイルスが感染した細胞では
細胞内でTLR3という分子が侵入してきたウイルスを感知し
IRF7などを活性化させて 
インターフェロンが産生され始めます

また インターフェロンが細胞に作用するには
細胞表面にインターフェロン受容体(IFNAR)が
存在しないといけません


こうしたことから筆者らは
世界中の新型コロナウイルス感染者の
TLR3 IRF7 IFNARの遺伝子解析を行いました

解析の対象となったのは
重症者659人 軽症者・無症候性患者534人です

その結果 重症者の23人(3.5%)(17歳~77歳)で
機能低下をともなう遺伝子変異が認められました

重症者で認められた機能低下をともなう遺伝子変異をまとめた図表

遺伝子変異が認められた患者さんには
特定の人種差 男女差は認められませんでした
アジアからも ヨーロッパからも 南北アメリカからも 中東からも
人種の偏りなく存在していました


詳しくデータを見ていくと

TLR3 IRF7に関連する遺伝子変異の多くは
変異がないWTに比較して
インターフェロン機能を低下させていることが明らかとなりました

遺伝子変異の多くはインターフェロン機能を低下させていることを示すグラフ

IRF7遺伝子の変異があると
細胞内でのIRF7の発現は低下し
新型コロナウイルス感染時の
pDCからのインターフェロンα産生はありませんでした

インターフェロンα産生がないことを示すグラフ


インターフェロン受容体遺伝子の変異があると
細胞表面にインターフェロン受容体は発現しておらず
感染時のインターフェロン情報伝達はありませんでした

インターフェロン情報伝達がないことを示すグラフ

また TLR3 IRF7 IFNARの遺伝子変異がある
新型コロナウイルス感染の重症者では
血中インターフェロンα濃度がほとんどゼロに近いこと
明らかにされました

血中インターフェロンα濃度がほとんどゼロに近いことを示すグラフ

こうした傾向は
TLR3 IRF7 IFNARの遺伝子変異はないけれど
前回紹介したインターフェロンαの自己抗体が存在する患者と
ほぼ同様でした

しかし遺伝子変異のある患者さんのなかで
インターフェロンαの自己抗体が存在する人は
1名もいませんでした


これらの結果から筆者らは

*TLR3による新型コロナウイルスの認識と
 IRF7が関与するインターフェロン反応が
 新型コロナウイルス感染の防御に重要であること

*こうした遺伝子変異を有していても
 過去に別のウイルス感染症により重篤な病態になったことはなく
 新型コロナウイルス感染による初めて明らかにされたこと

が重要なメッセージだと考察しています

そして
遺伝子変異が原因で重症化している患者さんを早期に発見し
インターフェロン治療を行えば
良好な治療成果が得られるだろう
としています


うーん 3.5%という頻度を
多いと考えるか少ないと考えるかは 微妙なところですが

新型コロナウイルス感染の重症化に
こうしたインターフェロン関連の遺伝子変異が関与しているのは
とても面白い現象だと思いました


ただ
前回紹介したインターフェロンに対する自己抗体にしても
今回の遺伝子変異にしても
他のウイルス感染の重症化には関与せず
新型コロナウイルス感染の重症化にだけ関与するのは
どうしてなのでしょう?

新型コロナウイルスそのものが
インターフェロン産生を抑制することも合わせて考えると
新型コロナウイルスは
よほどインターフェロンにセンシティブなのでしょうか?

だとしたら 感染初期に血中インターフェロン濃度を測定して
低い場合には
早期から積極的にインターフェロン投与を行うのも
有望な治療法なのではないかと思います


Yaleの岩崎先生たちが早くから
重症者はインターフェロン産生が低いと指摘されていたのは
慧眼だったのかもしれません

とても興味深いです!
今後の更なる研究の進展を期待したいです


ということで
今年の「お勉強ブログ」は 今日が最後です

今年は「新型コロナウイルス」という
思いもよらなかった大スター(?)が登場したので
途中から生活習慣病などの解説を中断して
新型コロナ関連の話題紹介や解説を続けました

勉強する書き手

書き手は もともとお勉強好きなので
結構楽しみながら調べたり書いたりしていましたが
独りよがり傾向もあったかもしれません(苦笑)

でも 一部の患者さんたちからは
「コロナの話がわかりやすくて面白い」とご評価いただき
書き手も嬉しく思っています

オタクな傾向もかなりあって恐縮ですが(再苦笑)
火曜~木曜のお勉強ブログに
来年もお付き合いいただけると幸いです

勉強するネコ

読み手の皆さんも 素敵なクリスマスを!

高橋医院