新型コロナ・ウイルスがインターフェロンを産生させない機序
新型コロナウイルスに感染して 予後が悪い人では ウイルス感染時に体内で産生される 抗ウイルス作用を持つインターフェロンの量が少ない ことが報告され これが重症化の原因のひとつではないかと 推察されています この 新型コロナウイルスによるインターフェロン産生抑制作用 のメカニズムを明らかにした論文がCellに掲載されました なかなか美しい論文ですので ご紹介します この研究をされたのは 南カリフォルニア工科大学の研究チームです 論文のポイントを端的にまとめると 新型コロナウイルスが産生する4種類のタンパク質が 細胞内でインターフェロンが産生される3つのプロセスを抑制する ということです *NSP16というタンパク質は 核内でのインターフェロンのmRNAの形成を抑制します *NSP1というタンパク質は 細胞内のリボゾームで インターフェロンのmRNAからインターフェロンが作られるのを(翻訳される) 抑制します *NSP8 NSP9というタンパク質は リボゾームでできたインターフェロンが細胞外に放出されるのを抑制します こうした新型コロナウイルスの作用により インターフェロンは *mRNAが作られず (Splicingの抑制) *タンパク質に翻訳されず (Translationの抑制) *細胞外に放出されない (Protein Traffickingの抑制) ため 新型コロナウイルスへの抗ウイルス作用を発揮できないのです うーん 何を言っているのかわからない! という方も多いと思いますから そもそも体内でインターフェロンはどのように産生されるかを 説明しようと思います 細胞にウイルスが感染すると 細胞内でウイルスのdsRNAが形成されて それを認知した自然免疫系の働きにより インターフェロンの産生系が活動し始めます *核内でインターフェロンの遺伝子が活性化されて ゲノムからインターフェロンのmRNAが形成されます このステップをSplicingと呼びます *形成されたインターフェロンのmRNAは 細胞質内のリボゾームに運ばれて mRNAを鋳型にしてアミノ酸がつなぎ合わされて タンパク質としてのインターフェロンが作製されます このステップをTranslation・翻訳と呼びます *リボゾームで作成されたインターフェロンは 細胞外に放出されて働くために 細胞内を輸送するタンパク質に結合して 細胞内を移動して細胞膜にたどり着き放出されます このステップをProtein Trafficking・細胞内輸送と呼びます 図のAに示されるように 新型コロナウイルスが作るNSP16というウイルスタンパクは 核内でのSplicingを抑制し 図のBで示されるように NSP1というウイルスタンパクは リボゾームでのTranslation・翻訳を抑制し 図のCで示されるように NSP8/9というウイルスタンパクは Protein Trafficking・細胞内輸送を抑制して 細胞外へ放出させないようにするのです 新型コロナウイルスが どんなに厄介なことをしているか なんとなくイメージできたでしょうか? 次回 もう少し詳しく説明します
高橋医院