今年の「お勉強ブログ」は終了しましたとお知らせしましたが
イギリス発の新しい変異ウイルスの話題が盛り上がっていますので
急遽 追加解説です


イギリスでは
12月に入り新型コロナの感染者数が急増し
新たに出現した変異ウイルスが主に流行していることから
政府は再び警戒レベルを上げ
厳しい外出禁止令が発令されました

厳しい外出禁止令が発令するイギリスのジョンソン首相

そのため
ヨーロッパをはじめ世界各国が変異ウイルスを心配して
イギリスとの出入国を停止し
イギリスでは
国外脱出を試みる人たちが列をなしています

イギリスから国外脱出を試みる人たち


<B.1.1.7 と命名された新たな変異ウイルス>

このように 
世界から注目されている新たな変異ウイルスは
B.1.1.7 と命名されており
9/20にケントで 9/21にはロンドンで認められました

イギリスで流行している新型コロナウイルスのうち
この変異ウイルスが占める割合は
11月には28%でしたが 
12月中旬には62%に増えています

変異ウイルスが占める割合が急増していることを示すグラフ

12/15の報告では
イギリスでは南東部を中心に1623人の変異ウイルス感染者が認められ
スコットランド ウエールズを含むイギリス各地
オランダ デンマーク イタリア オーストラリアでも認められています

この変異ウイルスは
免疫力が低下しているために慢性の経過をとっている患者さんから
出現した可能性が指摘されています


<変異ウイルスは ヒトへの感染力が強い?>

この変異ウイルスが注目されているのは

*イギリスで感染者数が急増している

*変異ウイルスが占める割合が短期間に急激に増加している

変異ウイルスが占める割合が短期間に急激に増加していることを示すグラフ

*変異はウイルスがヒトの細胞に侵入するときにACE2と結合する
 スパイクタンパクの遺伝子の一部に起こっている

スパイクタンパクとACE2が結合する様子

*変異の一部は 感染力を強める可能性がある

といった理由により
ヒトへの感染力が強いのでは?と危惧されています


イギリスのジョンソン首相は記者会見で
変異ウイルスは感染力が最大70%強くなり
そのせいで実行再生産数が0.4増加したと述べました

声明を出すジョンソン首相

しかし この70%という数字は
科学者が別の会見で述べたもので
彼は「注意する必要があるが 明言するには早すぎる」
と指摘しています

また 変異ウイルスの感染力の強さを証明するデータは不十分だ
とする研究者も多数います

感染者の伸び率が急増しているのは
単に規制が緩んでいるからかもしれないとも指摘され
ウイルスの変異のせいか 人の行動の変化のせいか わからない
という意見もあります

アメリカのCDCも
確かに急激に感染者が増えているが
ウイルスの感染性が増したためかわからないと
声明のなかで述べています

CDCが出した声明文

書き手も 
70%という数字が独り歩きしているように感じ
感染性の増強の真偽ついては
もう少し慎重に経過を見た方が良いように思います


<重症化 ワクチンの効果への影響は?>

今回の変異ウイルスが
重症化 致死率を増加させる可能性は 
今のところ否定されています

ただ もう少し時間が経たないと
本当の影響は解らないかもしれません


一方 変異ウイルスは
ワクチンの有効性にも影響を及ぼさないと考えられています

ワクチンで誘導される抗体や免疫反応は
スパイクタンパク全体に対するものなので
その一部が変異したとしても
トータルな効果は影響されないだろうという理屈です

現在 ビオンテックもモデルナも 
確認実験を行っているそうです

記者会見するビオンテックのワクチン開発者

ただ スパイクタンパクに
変異がさらに加わり積み重なっていけば
ワクチン効果に影響を及ぼす可能性はあると
指摘する研究者もいます


<南アフリカの変異ウイルス>

南アフリカでも 新たな変異ウイルスが出現し
全体の80~90%を占めているそうです

この変異ウイルスは スパイクタンパクの遺伝子に
イギリスの変異ウイルスが有するN501Y変異と
それ以外に2カ所の別の変異を有すると報告されていて

イギリスの変異ウイルスとは
独立して発生したものと考えられています

患者さんのウイルス量が増えているので
変異ウイルスが感染性を強めている可能性が指摘されていますが
やはり感染性増強については 
もう少し慎重になった方が良いと思います

ここ数日 
イギリスで南アフリカの変異ウイルスが同定されたことが
かなり大々的に報道され 多くの人が不安に感じているようです

イギリスでの南アフリカの変異ウイルスの同定を伝えるニュース

でも 本当にそんなに心配しなければいけないのでしょうか?

明日のブログで そのあたりを説明します
高橋医院