世界を不安に陥れている
イギリス発の変異ウイルスですが

日本でもイギリスからの到着便の乗客5人から
このウイルスが同定されて
昨晩 大きなニュースになっていました

日本での変異ウイルス同定を伝えるニュース

ほとんどの陽性者は 無症状だったようですね

この変異ウイルスがどんなものなのか
もう少し詳しく見てみましょう

<どのような変異が起こり 何が心配なのか?>

ウイルス 特にRNAウイルスが変異を起こすのは
ごく普通なことです

RNAウイルスが変異を起こすのはありふれた現象であることを説明する図

前にも紹介しましたが 新型コロナウイルスも
2週間に1回のペースで変異を起こし続けています

2月にヨーロッパで出現し 
世界の主流になったD614G変異をはじめ
これまでに多くの種類の変異が報告されていますが

幸いなことに 
感染性 重症化との因果関係が確立された変異はなく
変異がワクチンや中和抗体を無効にするとの報告もありません


ただ 今回のイギリスの変異ウイルスは
ゲノムの17ヵ所で 
同時に変異が起きているのが特徴的です

イギリスの変異ウイルスが有する変異を全て示した表

全体で14ヵ所の変異 3ヵ所の欠失を認め
ヒトの細胞に感染するときに働くスパイクタンパクの遺伝子には
6ヵ所の変異 2ヵ所の欠失があります

スパイクタンパクで見られる変異を示す図


そのうちの代表的なものを説明します

*N501Y変異(アミノ酸がアスパラギンがチロシンに変化)

スパイクタンパクのRBDドメイン(ACE2と結合する部位)の
構造に変化を及ぼして ACE2との親和性を高める可能性があり
この変異を持つウイルスは
実験レベルでは細胞への感染性が増大しています

*H69/V70欠失(ヒスタミン バリンが欠失する)

RBDドメインの他の変異と高頻度に共存しており
デンマークのミンクに感染したウイルスでみられた変異です

この欠失があると
回復した患者さんから得られた中和抗体の
攻撃を回避する可能性が指摘され
実験レベルでは 細胞への感染力が2倍に高まっています

*P681H(プロリンがヒスチジンに変化)

スパイクタンパクがACE2と結合した後に
細胞内に侵入するときに働くフーリン切断サイトに隣接した部位の変異で
細胞への感染性を高める可能性があります


スパイクタンパクのN501YとP681H変異は
これまでに それぞれ別個に報告されていますが
同時に認められたのは
今回のイギリスの変異ウイルスが初めてです

こうした複数の変異が同時に存在すると
ウイルスの構造などに新たな変化が起きて
感染や増殖などの動態に影響が起こる可能性があると
指摘する研究者もいます

未知なことなので誰もわかりませんが
そうした視点からは
この変異ウイルスには注意が必要かもしれません


<ウイルスの変異は そんなに心配なことなのか?>

最後に再度
ウイルスの変異と感染性増強の関連について述べます

確かに変異を起こした新型コロナウイルスは
起こしていないウイルスに比べて
マウスなどの実験動物や 試験管内の培養細胞への
感染性が高まることが世界各地から報告されています

たとえば 
今 世界の流行の主流となっているD614G変異ウイルス
実験レベルでは感染性が増強していることを
以前にもブログで紹介しましたが

D614G変異ウイルスの感染性の増強を示す図

最近 医科研の河岡先生たちも
人工合成した変異ウイルスと培養細胞を用いた研究の
とてもきれいなデータをScienceに報告されています

河岡先生たちのScienceの論文


ただ 動物実験や試験管内で得られた結果が
本当に人と人との感染でも起こり得るのか?
という点に関しては
批判があることも紹介しました


さらに 最近のNature Commun
ウイルスの系統発生理論を用いて検討したところ
RoHOという指標を用いていますが 難しくてよくわからない:苦笑)

D614Gも含めたこれまでに同定された新型コロナウイルスの変異で
感染性との相関を認めるものはない

という研究結果が報告されました

Nature Communの論文
論文の筆者らは
D614G変異ウイルスが
現在感染しているウイルスの主流になっているのは事実だが

それは感染力が強いからでなく
たまたま変異したウイルスが やがて集団の中で一般的になるという
「創始者効果」と呼ばれる現象によるのではないか

と考察しています

RoHOについて説明した図
創始者効果について説明した図

人々が恐れているような変異は そうは簡単に起こらない と


どうなのでしょう?

新たな変異ウイルスに感染している人の割合が増え
それと同時に感染者の増加スピードが右肩上がりになると
確かに変異ウイルスの感染力が増強したと考えがちです

本当にそうなのか?

やみくもに怖れてパニックになる前に
もう少し時間をかけて経過を見ていくべきかもしれません


そして いちばん大切なことは
変異していないウイルスでも 変異したウイルスでも
感染防止のために行うべき対処法は変わらないということです!

感染防止のために行うべき対処法・その1
感染防止のために行うべき対処法・その2

年末年始のシーズンに入りますが
今年は残念ながら ステイホームしましょう!

基本的に人との接触がなければ ウイルスには感染しません
頑張って辛抱しましょう!

年末年始のステイホームを呼びかけるポスター

高橋医院