ワイン造りにおける酵母の働き
アルコール発酵で とても重要な働きを示す酵母 パスツールのアルコール発酵の発見後に デンマークのハンセンが 酵母の純粋培養法を確立して 容易に培養酵母が使用できるようになります 質の良い ビール酵母 ワイン酵母が同定され 醸造に使用されるようになり 醸造がより豊かなものになっていきます <酵母とは> 酵母は サッカロマイセスと呼ばれる 5~10マイクロメートルほどの大きさの 小さな単細胞真核生物です 醸造以外にも ヒトの遺伝 老化などの現象の研究に用いられています 数年前に大隅先生が 酵母を用いたオートファジーの研究でノーベル賞を受賞されたとき 晩さん会のスピーチで 酵母はオートファジーの研究に大いに貢献してくれたが それよりも人類にもっと大切なこと すなわちアルコール発酵で 大変な貢献をしてくれていると酵母を褒めたたえ ワインに酔った参加者たちから 万雷の拍手を得ていました(笑) <自然酵母と培養酵母> さて その酵母ですが 自然酵母と培養酵母があります @自然酵母 ブドウの果皮や土壌などの自然界に存在している酵母です 樽に由来するものもあります 自然酵母によるアルコール発酵では 発酵が開始されるまでに時間を要しますが 豊かでまろやかなワインになるとされています 低温でゆっくりと発酵が進むので 香り成分があまり失われず 面白いブーケが出てくると言います また ブドウ畑に住み着いた自然酵母はテロワールの一部とされ ワインの個性を強く 複雑なものにできると考えられています 一方で 自然酵母による発酵は リスクが大きい面もあります 発酵がゆっくり進行するため 酸化の影響を受けやすく また 自然酵母には多種多様な変種があり ワインの発酵に好ましいものもあれば好ましくないものもあるので 好ましくないものが主になってしまうと ワインの出来が悪くなることもあります どのような自然酵母が主になるかは その時の環境次第で 自然界に存在しているものなので 年によっても異なってきます 自然酵母は 面白いけれど リスキーでもあるのです @培養酵母 ワイン造りに用いられる酵母は ワイン酵母・サッカロマイセス・セレヴィシュと呼ばれます 現在は サッカロマイセス・セレヴィシュを母体とした 純粋培養の優良ワイン酵母が利用されています ブドウの果皮に付着していた自然酵母のなかから ワイン造りに有用な 低温での発酵能力に優れ 異味 異臭を放つ成分の生成が少ない酵母が 長い年月のなかで選別されてきて それを培養されたものです 培養酵母を用いれば 適切な発酵が適切なタイミングで始まり 何の問題もなく終了します 多くのニューワールドのワイン造りで使用され 最近ではヨーロッパでも使用する醸造家が増えてきています また どの系統の酵母株を用いるかは ワイン造りにおける重要な判断のひとつになります 培養酵母を用いると ワインの個性は失われるかもしれませんが ブドウの品種が持つ潜在能力を引き出すことができるとされます <実際の発酵での酵母の働き> @発酵の過程で優勢となる酵母の種類が変化する 最初はアルコールに弱い ブドウの果皮に多く存在している自然酵母が主に関与し アルコール度数が4~6%になると アルコール耐性を有するサッカロマイセス・セレヴィシュが 発酵の仕事を引継ぐことになります ブドウを破砕する際に 亜硫酸を加えて好ましくない自然酵母や雑菌を死滅させて 丈夫な自然酵母 サッカロマイセス・セレヴィシュが生き残れるようにします また発酵中の温度が高いと サッカロマイセス・セレヴィシュが活動しやすくなります @酵母の発酵以外の働き 酵母の働きは アルコール発酵だけではありません ワインに含まれる約1000種類の揮発性化合物のうち 400種類以上が酵母により生み出されていて 糖分以外の成分にも作用して ワインの香り 味 コクに変化を与えます ワインの豊かな風味と香りの多くは 酵母の働きのおかげで生まれてくるのです 酵母は ワイン造りだけでなく ビールや日本酒などの他の醸造酒や パン 味噌 醤油などの製造にも関与していて とても奥深く 興味が尽きません
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