変異株による致死率の増加と免疫逃避
前回も説明しましたが 変異株で厄介なのは 「感染力が増すこと」と「免疫を回避すること」です 大事な点をもう一度強調しますが イギリス株 南アフリカ株 ブラジル株の全てで認められる N501Y変異は 感染力の増強に関与します 変異によりウイルス増殖が高まり ウイルス量が増えることが理由のひとつと考えられています 一方 南アフリカ株 ブラジル株で認められる E484K変異は 免疫回避に関与します <イギリス株は感染力だけでなく致死率も高める> 最近 イギリス変異株は致死率も高めるという とてもショッキングなデータが相次いで報告されました 2/25にイギリスの医学誌BMJに発表された イギリスのヨーク大学の研究では イギリス株の致死率が従来のウイルスに比べて 64%も増加すると報告されました 書き手はこの論文を見た時に まだ一施設だけからの発表だから本当にそうかわからない と思っていましたが なんと3/15のNatureにロンドン大学から発表された論文でも 致死率が55%も増加すると示されたのです 下に示すグラフで イギリス株(オレンジ色)が 昨年12月頃からどんどん増えてきて それとともに死者数も増加しているのがわかります この論文が発表されて 本当に驚きました なんといってもNature様(笑)にアクセプトされた論文ですからね 世界で大流行しているイギリス株は 感染力が増すだけでなく なんと致死率も高める 日本でも同じようなことが起こらないか心配です <南アフリカ株 ブラジル株は 再感染するしワクチンが効かない?> 免疫逃避とは どういうことかというと ウイルスが変異することにより ウイルスを撃退する中和抗体の働きが弱くなることです つまり 既感染やワクチン接種により ヒトが獲得した新型コロナウイルスに対する免疫反応から 逃避してしまう @再感染する だから 変異していない新型コロナウイルスに感染して 中和抗体ができて治った人も また変異株に感染してしまう可能性もある 既に説明したように この免疫逃避には 南アフリカ株 ブラジル株に認められる E484K変異が関与していますが 実際にブラジルでブラジル株が流行している地域では 既に一度変異していない新型コロナウイルスに感染したひとの多くが ブラジル株に再感染しているそうです @ワクチンが効きにくくなる さらに面倒なのが E484K変異が起こると ワクチン効果が減弱することです そもそも現在接種されているワクチンは スパイクタンパクを作るRNAを打ち込んで 体内でスパイクタンパクを作らせて それに対する抗体をはじめとする免疫応答を起こさせて 効果を発揮させようと目論んでいるものですが E484K変異がおこると スパイクタンパクの形状が微妙に変化するので 変異のないウイルスへの感染やワクチン接種により 体内に誘導された中和抗体が 形状が微妙に変化したスパイクタンパクを正しく認識できなくなり 効果が薄れて免疫逃避が起きてしまう 2/10にNatureに発表された論文では E484K変異を含む何種類かの変異を有するウイルスには 現在接種されているワクチンで体内に出来た抗体の効果が 有意に低下すること が明らかになりました この論文を読んでより厄介だと思ったことは ウイルスがE484Kだけでなく複数ヵ所に変異を有していると 抗体の効果がより減弱してしまうことです 今後さらにウイルスの変異が蓄積していくと より厄介なことになるかもしれません この論文では最後に mRNAワクチンのアップデート続けていく必要があると強調しています <第2世代のmRNAワクチンの時代へ> 以上まとめると ウイルスがスパイクタンパクの変異を繰り返していく現状では 感染力が増し 免疫逃避力も強まり 感染が高まり致死率も上がってきてしまうだろう それに対する対策としては 幸いmRNAワクチン技術は 迅速かつ柔軟に新たな変異株に対するワクチンを製造できるので 変異株に有効な第2 第3世代のmRNAワクチンを 開発していかなければならないということです 実際に第1世代のmRNAワクチンを製造した製薬会社各社は 既に第2世代ワクチンの開発に取り込んでおり 数ヵ月で出来るだろうと予測する会社もあります ということで 変異株の現状を認識していただくことができたでしょうか? 思い切りペシミステイックなことを言えば 現在接種が開始されているワクチンをうっても やがてそのワクチンがあまり効かない 南アフリカ株やブラジル株が優勢になってきたら またそれらに有効な第2世代のワクチンを 接種しなければいけなくなるかもしれない ということです 残念ながら 厄介な戦いはまだ当分続きそうです
高橋医院