新型コロナウイルスの変異株については
昨年末にこのブログでも解説しました
最近 世界中で変異株が猛威をふるい
日本でも各地で検出されとても大きな話題になっているので
最新情報をご紹介します


<世界 日本で認められている変異株>

WHOは 世界で認められている主な3種類の変異株について
3/16現在の状況を公開しています

3種類の変異株についてまとめた表

いちばん広がっているのがイギリス株
世界118ヶ国で検出されています

世界でのイギリス株の広がりを示す地図

次いで 南アフリカ株が64ヶ国

世界での南アフリカ株の広がりを示す地図

ブラジル株は38か国世界でのブラジル株の広がりを示す地図

それぞれ検出されています

国立国際医療研究センターで
COVID-19の最前線での診療・研究に従事されている忽那先生は
ご自身のブログで変異株について解りやすく解説されていますが
その中で上記の3種の変異株の
感染性の強さ 重症化リスク ワクチン効果
についてまとめられています

3種の変異株の感染性の強さ 重症化リスク ワクチン効果についてまとめた表

また 日本における変異株の最近の確認数を提示されていますが
経時的に増加傾向を認め
今のところそのほとんどがイギリス株であることがわかります

日本での変異株の動向を示すグラフ


<変異株の何が厄介なのか?>

変異株とは いったい何なのでしょう?

新型コロナウイルスは 30,000個の塩基が並んで出来ています
ヒトの細胞の中で増殖を繰り返すうちに
約2週間に1回の頻度で塩基に変異が起こります

新型コロナウイルスの遺伝子配列について解説する図

これは通常の現象ですが30,000個の塩基のなかで
スパイクタンパクと呼ばれる部位を作る遺伝子に変異が集積してくると
色々と面倒なことが起きてきます

スパイクタンパクは
ウイルスがヒトの細胞に侵入するときに使用される部位なので
その遺伝子に変異が起こると
感染性が増したり 中和抗体から逃れる(免疫逃避)現象が
起こってきてしまうのです

スパイクタンパクに変異が起きている様子

<イギリス株 南アフリカ株 ブラジル株では どのような変異が起きているのか>

世界で最も流行しているイギリス株では
スパイクタンパクの遺伝子の7ヵ所で変異が起きています

南アフリカ株でも
スパイクタンパクの遺伝子の7ヵ所で変異が起きていますが
イギリス株と同じ変異が2か所で 残りは異なります

ブラジル株では
スパイクタンパクの遺伝子の11ヵ所で変異が起きていて
イギリス株と同じ変異が2か所
南アフリカ株と同じ変異は2か所で 残りは異なります

3つの変異株のスパイクタンパクでの変異を比較した図


@イギリス株

イギリス株で認められるN501Y変異
(501番目の塩基がNからYに代わった変異)
ヒトの細胞への感染力増強に関与していると考えられています

またP681H変異は スパイクタンパクの造成力を増し
H69-V70 Y144/145の塩基の欠損
スパイクタンパクの形を変え 免疫逃避に関わる可能性が示唆されています

イギリス株の変異についてまとめた表

この図はスパイクタンパクの立体構造で
それぞれの変異が
スパイクタンパクのどの部位で起きているかを示しています

イギリス株のスパイクタンパクの立体構造


@南アフリカ株

イギリス株と同様にN501Y変異を認め
イギリス株では見られないK417N変異とともに
ヒトの細胞への感染力増強に関与していると考えられています

またイギリス株では見られないE484K変異
免疫逃避に関わると考えられています

南アフリカ株の変異についてまとめた表
南アフリカ株のスパイクタンパクの立体構造


@ブラジル株

南アフリカ株と類似しています

イギリス株 南アフリカ株が持つN501Y変異
南アフリカ株が持つK417N変異 を認め
感染力増強に関わると考えられます

また南アフリカ株が持つ 免疫逃避に関わるE484K変異
有しています

ブラジル株の変異についてまとめた表
ブラジル株のスパイクタンパクの立体構造


南アフリカ株とブラジル株の
スパイクタンパクの立体構造を比較すると
両者が類似しているのがわかります

南アフリカ株 ブラジル株のスパイクタンパクの立体構造を比較した図


<フィリピン株>

最近 日本でフィリピンからの渡航者から
フィリピン株と呼ばれる新たな変異株が同定されました

この変異株がフィリピンでどれほど流行しているか詳細は不明ですが
上記のN501Y E484K以外に P681Hという変異を有しています

フィリピン株のスパイクタンパクにおける変異をまとめた表

P681H変異は
イギリス株でも認められますが
コロナウイルスがスパイクタンパクを用いてヒトの細胞に入り込む際の
最終段階で働くタンパク質を作る遺伝子の変異で
感染力の増強に関与すると考えられるため
今後のフィリピン株の感染動向に注意が必要と考えられます

P681H変異を起こしたスパイクタンパクの立体構造
P681H変異についてまとめた表
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