抗体だけでワクチンの効果を評価していいのか?
変異株に対する中和抗体 ワクチンの効果について 相次いで発表された論文の紹介を続けます <南アフリカ株は既感染者 ワクチン接種者が有する抗体の感受性が低い> 3/25のCellに イギリスの研究グループから発表された論文では 既感染者や アストラゼネカ ファイザーのワクチン接種者の血清を用いた 各種変異株の中和抗体に対する感受性の検討により 抗体の感受性は イギリス株 ブラジル株 南アフリカ株の順に低下することが 明らかにされました 中和抗体に対する感受性はイギリス株に比べて ブラジル株では3.1倍低下し 南アフリカ株では なんと13倍も低下していました また ワクチン接種者の抗体の中和能の低下も ブラジル株より南アフリカ株でより著明でした 同じE484K変異を有していても 南アフリカ株の方がブラジル株より厄介だという結果は 興味深いです 一方 スパイクタンパクがACE2と結合する部位である RBD以外の部位を認識して結合するモノクローナル抗体が ブラジル株 南アフリカ株にも有用であることが示され ブラジル株 南アフリカ株の免疫逃避には RBD以外の部位が関与している可能性があり それらの部位を認識するモノクローナル抗体を用いた ブラジル株 南アフリカ株治療の可能性が提示されました モノクローナル抗体のデザイン次第によっては 抗体カクテル療法は まだ将来性がありそうです <感染またはワクチン接種後6~9ヶ月経過した人が有する抗体は 南アフリカ株に対する中和活性が低下している> 今回ご紹介する最後の論文は 3/26のNature Medicineに フランスの研究グループから発表されたもので これまでの論文と同様に 既感染者 ファイザーのワクチン接種者の血清を用い 各種変異株の中和抗体に対する感受性が検討されました その結果 感染から9か月以上経過した既感染者が有する抗体は 中和活性そのものが6倍も低下していて 40%の人で南アフリカ株に対する中和活性を失っていること ファイザーのワクチン接種後6ヵ月経過した人が有する抗体は イギリス株に対する中和活性は保持されているけれど 南アフリカ株に対する中和活性は14倍も低いこと が明らかにされました 一方で 既感染者 ファイザーのワクチン接種者が有する抗体の スパイクタンパクのACE2結合阻害作用は イギリス株でも南アフリカ株でも同様であったことから 南アフリカ株の免疫逃避には スパイクタンパク以外の部位の変異が関与している可能性を 筆者らは推測していました ということで わずか1か月あまりの間に 特に南アフリカ株には 既感染者やワクチン接種者が有する抗体の効果が低下していることが 各国の研究グループから相次いで超一流医学誌に発表されました <抗体だけでワクチンの効果を評価していいのか?> これらの研究結果は ワクチンや有望視されている抗体カクテル療法の 今後の新たな開発の必要性を示唆するもので 変異株との知恵比べは これからも長く続いていきそうです 実際にワクチンを製造している各社は 南アフリカ株やブラジル株にも対応できる 新世代のワクチンの開発 製造に既に着手しているようです 一方で いくつかの論文で指摘されていた 既感染やワクチン接種で体内に誘導された抗ウイルス免疫能を 抗体の中和能だけで評価してよいのか という点は 大きな問題提起だと思います 既感染やワクチンは ウイルスに対する抗体だけでなく T細胞反応も惹起します ですから 変異株に対する抗体の中和能が低下していても T細胞反応がしっかり機能していれば 体内では総合的に抗ウイルス作用を発揮できる可能性があります 今回ご紹介した 変異株に対する抗体の中和能低下を示すデータを見て がっかりされる方も多いかもしれませんが 本当に変異株に対するT細胞反応も含めた免疫能が低下しているかは まだ解らないのが現状だと思います ですから 脅かすような論文を これでもかとばかりにご紹介しておいてなんですが(苦笑) 特にin vitroでの抗体中和能のデータに 一喜一憂しないことが大切かもしれません 一方 ファイザーは4/1に ワクチン効果は少なくとも半年間は持続すること 南アフリカ株への予防効果は100%であったこと を発表しています in vitroの抗体中和能だけでワクチンの効果を判断するな というメッセージなのかもしれません?(苦笑) 最後に これらのデータから私たちが学ぶべきことは ワクチンを接種しても南アフリカ株などには 再感染する可能性があるということです ですから ワクチンを接種したからといって安心せず マスク 手洗い 人混みを避けるといった生活の基本を 継続していくことが大切だと思います
高橋医院