新型コロナウイルスの変異株について色々と解説してきましたが
4/7に国立感染研究所から
日本における変異株の現状が報告されました

国立感染研究所が公開した変異株の現状報告書


<変異株のスクリーング体制>

マスコミなどでは
日本における変異株のスクリーニング体制が
しっかりしていないと非難されています

現状では
PCRで新型コロナと診断された患者さんから任意に抽出して
各地方の衛生研究所などで
変異株PCR検査(N501Y変異を検出する)を行い
変異株と確定された検体の全ゲノム解析
感染研で行っているそうです

日本における変異株スクリーニング体制を示す図

最初の段階の任意抽出の頻度が低かったので
全陽性者数の40%の抽出を目標に行われています

関西では3月初めから40%の抽出が行われていますが
関東では3月初めの時点では15%ほどで
現在は25%程度まで増加しています

ただ 南アフリカ株やブラジル株などを同定するには
全ゲノム解析が必要で
それにはどうしても数日間はかかるので
あらゆる変異株を迅速に同定するというわけにはいかないようです


<日本での変異株の現状>

日本では
*イギリス株は2020/12/25に空港検疫でイギリスからの帰国者から初検出
*南アフリカ株は2020/12/28に南アフリカからの帰国者から初検出
*ブラジル株は2021/1/6にブラジルからの渡航者から初検出され
その後 変異株感染者数は経時的に増加しています

変異株感染者数は経時的に増加していることを示すグラフ

2021/4/5までの期間の解析では1997例の変異株感染例が認められ
その内訳は
*イギリス株が803例
*南アフリカ株が16例
*ブラジル株が55例
*N501Y変異を検出するPCR検査で変異陽性だが
 ゲノム解析が確定しない例が1123例
(大半がイギリス株と考えられています)
でした

@イギリス株がメイン

このように イギリス株が経時的に持続的に増加していて
南アフリカ株 ブラジル株は今のところ限定的です

イギリス株がメインで増えていることを示すグラフ

全国の34の都道府県で変異株が検出されていて
そのほとんどをイギリス株が占めています

各都道府県でのイギリス株の比率を示すグラフ

特に 大阪 兵庫で急激に増えていて全感染者の約70%を占め
関東では約10%を占めています

変異株の検査の実施率は
3月末には関東 関西ともに25%を超えるまで増えましたが
関西でのイギリス株が占める割合が非常に多いのがわかります

関西でのイギリス株が占める割合が非常に多いことを示す表

一方 東京でもイギリス株が増加してきて
4/8の東京都からの発表では
イギリス株が占める割合は
3/15~3/21の週では5.7%に過ぎなかったのに
3/29~4/4の週では32.3%に急激に増大して
それまでメインだったE484K変異株を上回る勢いです

東京でのイギリス株の急増を示すグラフ

この状況が続くと東京でも遠からず
大阪のような感染者数の爆発的増加状態になりかねません
非常に心配なデータです

一方
ブラジル株は 千葉県 埼玉県で多く
南アフリカ株は 岐阜県で多く見られます

ブラジル株は千葉県 埼玉県で多く南アフリカ株は岐阜県で多いことを示すグラフ


@どのウイルス株がメインかは都道府県により異なる

興味深いのは
各都道府県で主に流行しているウイルス株の種類が異なり

各都道府県で主に流行しているウイルス株の種類を示すグラフ

従来型の薄いブルーのB.1.1.214 黄色のB.1.1.284が
メインである地域は少なくなり

赤のイギリス株(B.1.1.7)が主となる地域が北海道 関西 西日本で多く

紺色のE484K変異のみを有する株(R.1)は関東や東北に多く
茶色の南アフリカ株(B.1.351)は岐阜で見られます

各都道府県間での人の交流が増えると
異なる変異株に感染した人が全国的に入り交じり
各都道府県の変異株の動態が変化する可能性が大いにあります

今後は都道府県や地域を越えた人の移動の制限が
重要になってくると思われます


@N501Y変異を認めずE484K変異を認める変異株

最近注目されている
N501Y変異を認めずE484K変異を認める変異株
関東から東北地方を中心に1393例が検出され
いずれの地方でも増加傾向にありました

しかしこの変異株は
感染性 伝播性が高いとは認識されておらず
公衆衛生的なリスクは高くないと見做されています

但し ワクチンの効果を低下させる可能性があるので
中長期的に対処していくべきリスクと考えられます


<イギリス株の特性>

@感染力の強さ

感染力の強さの指標となる実行再生産数は
イギリス株では従来株に比べて1.32倍と高く
これまで各国から報告されているように
日本でもイギリス株が強い感染力を有していることが
明らかになりました


@小児の感染者数の増加

男女比や診断時の症状の有無は
各変異株間で違いがありませんが

年齢別にみると
イギリス株が18歳以下で17.6%と多いことがわかります



この傾向は 従来株とイギリス株の比較でも明らかで



18歳以下のイギリス株の感染症例数は
従来型に比し有意に多いことが示されました



イギリスでは
昨年12月に初めて報告されたとき
従来株に比べて小児の感染リスクが高い可能性が指摘されましたが
その後公衆衛生庁の解析により
どの年代でも二次感染率が上昇していることが報告されています

従来株では小児の感染が少なかったのですが
イギリス株では本当に小児の感染率が高いのか
更なる検討が必要ですし

幼稚園 保育園 小学校などでは
そうした可能性を考慮して
これまで以上の厳しい感染対策をするべきでしょう




@入院期間が長期化する?

イギリス株が致死率を増加させることが
いくつかの論文で報告されていますが

日本でも報道によると
イギリス株感染患者さんの入院期間は
従来株の患者さんに比し長期になる傾向があるようです

まだはっきりとしたデータは出ていませんが
重症化率も高いかもしれません

入院医療体制を圧迫する可能性があり心配です


ということで
感染研が日本における変異株の動態の現状を発表してくれたので
色々と注意すべき点が明らかにされました

変異株はこれからもどんどん増えていくでしょうが
ポイントをおさえて対処していくことが大切だと思います

また 以前から何度もご紹介しているように
変異株でも従来株でも 日常生活における対処法は変わりません
地道な努力を続けていきましょう!

 

高橋医院