新型コロナウイルスのE484K変異株には
免疫逃避機能があり
ウイルスに一度感染したあとに再感染したリ
ワクチンの効果が低下する可能性があること
ご紹介してきましたが

この数週間の間に そうした仮説を裏付ける論文が
NEJM Cell Nature Medicineといった超一流医学雑誌に
相次いで発表されました

ちょっと驚きのペースです!

旬な話題なので ご紹介しようと思います


<既感染者 ワクチン接種者が有する抗体は
 南アフリカ株 ブラジル株を防御できない>

3/4のNature Medicine
セントルイスのワシントン大学の研究グループから発表された論文では

3/4のNature Medicineに発表された論文

新型コロナウイルス感染からの回復者
ファイザーのワクチン接種者 の血液を用い
イギリス株 南アフリカ株 ブラジル株の3種類の変異株に対する
血液中の抗体の中和能力が検討されました

その結果 イギリス株は
従来の変異のない新型コロナウイルスの中和に必要な量と同程度の抗体で
中和することができましたが

南アフリカ株 ブラジル株の中和には
従来の新型コロナウイルスの中和に必要な抗体量の
3.5~10倍の量の抗体が必要となることが示されました

筆者らは考察で
新型コロナウイルスの既感染者 ワクチン既接種者では
従来の新型コロナウイルスの感染を制御するのに十分な抗体が出来ているが
これらの人々の抗体では
南アフリカ株 ブラジル株は防御できない可能性がある
と指摘しています

そして 新たに出現してくる変異株に対して
抗体が有効であるか確認する検査を継続して行い
ワクチン モノクローナル抗体治療の戦略を適宜修正していく必要がある
と述べています


一方で
ウイルス感染に対する防御免疫反応は
抗体だけでなくT細胞なども含まれているので
抗体が機能しないからと言って 完全に防御できないとは言い切れない
とも指摘しています

この指摘は 書き手も重要なポイントだと思います
抗体の中和能はT細胞反応などと比べて容易に評価できるので
どうしてもその能力が過剰評価されがちな側面もあります

抗体だけで
実際の感染やワクチン接種により体内で誘導される
抗ウイルス免疫能を評価するのは片手落ちであることは間違いないので
こうしたデータに接して過度に一喜一憂することには
充分注意すべきだと思います


<アストラゼネカのワクチンは南アフリカ株には有効でない>

3/16のNEJMに
南アフリカの研究グループから発表された論文では

3/16のNEJMに発表された論文

アストラゼネカのワクチンを接種した人の血液中の抗体の
南アフリカ株に対する有効性が中和試験により検討されました

その結果
ワクチン接種者が有する抗体の
南アフリカ株に対する中和活性は著しく低く
南アフリカ株感染に対するワクチンの有効性も10.4%と低いこと
明らかとなりました

筆者らは考察で こうした傾向は
ファイザーやモデルナのワクチンでも認められると言及し
南アフリカ株にも有効な
新たな第2世代のワクチンの開発が望まれると結論しています


この論文で興味深いのは
in vitroにおける抗体の中和活性だけでなく
ヒトにおけるin vivoのワクチン有効性も評価して
それが南アフリカ株では有意に低いことを明らかにしていることです

アストラゼネカのワクチンは
超低温での保存も必要ないので
実際の臨床の場では使いやすいのですが
ヨーロッパでは接種後に生じる血栓形成との因果関係が
未だに完全にクリアに解決していないのも心配です


<既感染者 ワクチン接種者が有する抗体や
 抗体カクテル療法に用いられるモノクローナル抗体は
 南アフリカ株 ブラジル株を防御できない>

3/21のCellにドイツの研究グループから発表された論文では

3/21のCellに発表された論文

イギリス株 南アフリカ株 ブラジル株それぞれを用いて
*ウイルスのヒト細胞への侵入を阻害する薬の有効性
*実際の治療に用いられている抗体カクテル療法の成分である
 各種モノクローナル抗体の有用性
*既感染者 ファイザーのワクチンを接種した人の血清の
 ウイルスのヒト細胞への侵入阻止効果
を検討しました

その結果

可溶性ACE2 カモスタット EK-1 EK-1-C4などの侵入阻害薬は
いずれの変異株に対しても等しく有効性を示すこと

南アフリカ株 ブラジル株には
抗体カクテル療法で用いられるモノクローナル抗体(casirivimab bamlanivimab)
は有効性を示さないこと

一方で REGN-COV2というモノクローナル抗体は
南アフリカ株 ブラジル株にも有効性を示すこと

既感染者 ファイザーワクチン既接種者の血清は
南アフリカ株 ブラジル株のヒト細胞への侵入阻止効果が弱いこと

が示されました

南アフリカ株 ブラジル株のヒト細胞への侵入阻止効果が弱いことを示すデータ

筆者らはDiscussionで
南アフリカ株 ブラジル株は
既感染者やワクチンを接種した人の間でも
感染が広がっていくリスクがあると警鐘を鳴らしています


この論文で注目すべき点は
有望視されている抗体カクテル療法も
南アフリカ株 ブラジル株には効かない可能性がある一方で

可溶性ACE2などの侵入阻害薬が
南アフリカ株 ブラジル株にも有効性を示すことを明らかにした点です

南アフリカ株 ブラジル株に対する治療戦略を考えていく上で
示唆に富むデータだと思いました
高橋医院