当院に来られる糖尿病患者さんの多くは
肥満や生活習慣が発症に関与する2型糖尿病ですが

少数ですが
2型とはタイプが異なる1型糖尿病の方もおられます


<1型糖尿病とは?>

肥満や生活習慣が原因となる2型とは
原因や治療が大きく異なるタイプの糖尿病です

1型糖尿病と2型糖尿病の差異をまとめた表

膵臓でインスリンを分泌するβ細胞が
なんらかの機序により壊れて生ずる糖尿病で
β細胞の破壊は進行性に起こります


1型糖尿病の病態をまとめた図

β細胞が破壊されてインスリンが出なくなるので
高血糖になり
放置すると重篤なケトアシドーシスに陥り
生命の危険がともなうこともあります

治療は インスリン製剤が必要です


<疫学>

糖尿病全体の5%を占めると言われています

糖尿病全体のなかで1型糖尿病が占める割合を示したグラフ

若い人を中心に 幅広い年代で発症します

小児~若年者の病気というイメージがありますが
中高年でも発症するので注意が必要です


<糖尿病性ケトーシス ケトアシドーシス>

1型糖尿病の多くで見られる特殊な病態で
病初期に見られることも少なくなく
命にかかわる重篤な状態です

糖尿病性ケトアシドーシスの病態を説明する図

重症な場合は 意識がなくなる昏睡状態に陥ります

昏睡状態に至る過程を説明した図

インスリン不足により血糖値は十分に下がらず
そのために高度の脱水状態を伴います

ケトアシドーシスで見られる症状を説明した図

また 血液中の糖が細胞内に入らず
細胞は糖をエネルギー産生に上手く利用できないので
かわりのエネルギー源として脂肪が分解され
ケトン体という物質が血液中に増えます

ケトン体について説明した図

そして 血液が酸性に傾いていきます


ところで糖質ダイエットの解説で何度も言及しましたが
ケトーシスとケトアシドーシスは異なります

*ケトーシス

尿にケトン体陽性 血中ケトン体上昇のいずれかを認める状態です

*ケトアシドーシス

血中ケトン体の上昇により 血液が酸性に傾いた
より危険な状態です

@ケトアシドーシスの治療

ケトアシドーシスになったら
まず点滴により脱水状態を改善したのちに
できるだけ早期からインスリン治療を開始すべきです

ケトアシドーシスの治療方針

糖尿病性ケトアシドーシスのまとめ・その1
糖尿病性ケトアシドーシスのまとめ・その2


<インスリン依存性>

これも1型糖尿病に特徴的な病態で

インスリン製剤を使用しないと
血糖コントロールができない状態です

多くの場合 1型糖尿病と診断されたら
ただちにインスリン治療を開始することが重要です

1型糖尿病はインスリン依存状態ですが
2型糖尿病のほとんどの症例は
インスリン非依存状態で経過します


<原因>

特定のHLAなどの遺伝因子を有する人に
ウイルス感染などの誘因 環境因子が加わって
発症すると考えられています

自己に対する免疫反応によりβ細胞が障害される自己免疫性
自己免疫が関与しない特発性に分類されます

自己免疫性 特発性の違いを説明した図

また 他の自己免疫性疾患に高率に合併します

@自己免疫性

自己抗体(抗GAD抗体 抗IA-2抗体)
が診断に用いられます

ただし いずれの自己抗体も
発症後の経過とともに
抗体価が低下し陰性化することが多いです

自己免疫性の病態を説明する図

自己免疫性の病態を説明する図・その2

自己免疫反応によるβ細胞の破壊機序を説明した図

ウイルス感染など なんらかのことが引き金となり
過剰な自己免疫反応が起こるようになり
免疫系が自らの膵臓のβ細胞を破壊してしまうので
体内でインスリンが出来なくなってしまう

これが1型糖尿病の病態の本質です

@特発性

自己抗体が証明できないタイプです

<遺伝因子>

@HLA

特定のDRB1-DQB1ハプロタイプを有しています

HLAには
疾患感受性を示すもの(そのHLAを有しているとなりやすい)
疾患抵抗性を示すもの(そのHLAを有しているとなりにくい)
があります

1型糖尿病に関連するDRB1-DQB1ハプロタイプ

<発症様式によるサブタイプ>

発症様式によるサブタイプの差異をまとめた表

@急性発症型

最も頻度が多い典型的なタイプで
自己抗体を認めることが多い

糖尿病の症状が出はじめてから
数ヶ月(概ね3ヶ月以内)でインスリン依存状態になります

発症後 一時的に
残っている自分のインスリンの効果により
病態が改善する時期(ハネムーン期)があり
多くの場合 その後 再びインスリン治療が必要となります

@劇症型

最も急激に発症し
1 週間前後でインスリン依存状態に至ります

すぐにインスリン治療を行わないと
糖尿病性ケトアシドーシスになるので
早期の診断が重要です

自己抗体は 認めないことが多い

発見時は高血糖ですが
短期間の急激な血糖上昇なので
HbA1cは低めなのが特徴的です

@緩徐進行型

半年~数年かけて
ゆっくりとインスリン分泌が低下していくタイプで
内因性インスリン分泌が低下しない場合もあります

緩徐進行型の臨床経過を示した図

発症時 または診断時に
ケトーシスおよびケトアシドーシスはなく
直ちにインスリン治療は必要とはならないことが多い

しかし
膵臓に負担をかけるような内服薬は推奨されず
インスリン治療などで膵臓を保護する治療を開始することが望ましく
インスリン依存状態に陥る前に
診断後早期からインスリン治療を開始することがあります

自己抗体が陽性で
抗GAD抗体 ICAのいずれかの陽性が
経過中に確認されますが
自己抗体は多くの症例で経過中に陰性化します

緩徐進行型の診断基準

経過中の血液検査で自己抗体が検出され
緩徐進行1 型糖尿病だったと分かることもあります
高橋医院