劇症1型糖尿病は 比較的まれな疾患ですが
大人でも突然に発症することがありますから
注意が必要です

劇症型と他の型との違いをまとめた表

<劇症1型糖尿病とは>

インスリンを産生する膵β細胞の急速な破壊により
急激に高血糖をきたすタイプです

劇症型の臨床的特徴をまとめた図


あっという間
1週間~10日ほどで急に発症します

劇症型の臨床経過をまとめた図


<疫学>

急性1型糖尿病の約20%

有病者数は2万人程度
年間300人前後の発症者がいると
報告されています

20歳以上の大人が92%ほどと多く
平均発症年齢は
男性43歳 女性35歳 です

劇症型の疫学的特徴をまとめた表

<原因>

*ウイルス感染による膵臓炎
*ウイルス感染に対する免疫応答

このどちらか またはその両方が
インスリンを産生する膵β細胞の急激な破壊につながると
推測されています

ヒトヘルペスウイルス6型
コクサッキーウイルス
インフルエンザBウイルス
ムンプスウイルス
など さまざまなウイルスの関与が報告されています

病理学的には
膵β細胞の破壊がα細胞も巻き込んでいて
マクロファージの著明な浸潤が観察されます


<症状>

約70%の症例に 1週間~10日ほど前からの
上気道炎(咽頭痛 発熱など)
消化器症状(上腹部通痛 悪心•嘔吐)
などの感染症状が認められます

急激な血糖上昇のため
口渇 多飲 多尿 全身倦怠感を呈し
初診時に尿中ケトン体陽性でケトーシスを認めます

劇症型の初期症状をまとめた表

重症化すると
ケトアシドーシスによる昏睡 意識障害に陥り
放置されると生命予後も危ぶまれます

急激な発症で
症状が出てから糖尿病性ケトアシドーシスになるまでが短期間なので
高血糖を認めますが
HbA1cは6~7%台と高くない場合が多いのが特徴です

内因性インスリン分泌の欠乏を認めます

劇症型の臨床的特徴をまとめた表


<治療>

@急性期

ケトアシドーシスに対する適切な輸液と
インスリン投与が必須です

@急性期から回復後

インスリン強化療法など
通常の1型糖尿病の治療に準じて
食事療法 運動療法 インスリン治療 自己管理が必要になります

急性発症1型糖尿病と比べて
血糖変動が激しく 合併症をきたしやすいとされます


<劇症1型糖尿病診断基準(2012)>

@下記1~3のすべての項目を満たすものを 劇症1型糖尿病と診断する

1 糖尿病症状発現後1週間前後以内で
 ケトーシスあるいはケトアシドーシスに陥る
(初診時尿ケトン体陽性 血中ケトン体上昇のいずれかを認める)

2 初診時の(随時)血糖値が288 mg/dl (16.0 mmol/l) 以上であり
 かつHbA1c値 (NGSP)<8.7 %である

3 発症時の尿中Cペプチド<10 µg/day
 または空腹時血清Cペプチド<0.3 ng/ml
 かつ
 グルカゴン負荷後(または食後2時間)血清Cペプチド<0.5 ng/ml である

劇症1型糖尿病発症前に耐糖能異常が存在した場合は
必ずしもHbA1cの項目は該当しない

@参考所見

*原則としてGAD抗体などの膵島関連自己抗体は陰性である

*ケトーシスと診断されるまで
 原則として1週間以内であるが 1~2週間の症例も存在する

*約98%の症例で発症時に
 何らかの血中膵外分泌酵素(アミラーゼ リパーゼ エラスターゼ1など)が上昇している

*約70%の症例で 前駆症状として
 上気道炎症状(発熱 咽頭痛など)
 消化器症状(上腹部痛 悪心・嘔吐など)を認める

*妊娠に関連して発症することがある

*HLA DRB1*04:05-DQB1*04:01との関連が明らかにされている

劇症型の診断基準
高橋医院