自己免疫性膵炎
前回ご紹介したIgG4関連硬化性胆管炎に 高率に合併する自己免疫性膵炎・AIPについて説明します <自己免疫性膵炎・AIPとは?> しばしば閉塞性黄疸で発症し ときに膵腫瘤を形成する特有の膵炎で リンパ球と形質細胞の高度な浸潤と線維化を 組織学的特徴とし ステロイドに劇的に反応することを 治療上の特徴とする病気です これまでに説明してきた 脂質が多い食事をした後にお腹が痛くなる 急性膵炎や慢性膵炎とは 全く異なるタイプの膵炎です <分類> @1 型 わが国のAIPは ほとんどがこのタイプです 中高年の男性に多く 膵の腫大や腫瘤とともに しばしば閉塞性黄疸を認め 硬化性胆管炎 硬化性唾液腺炎 後腹膜線維症などの 膵外病変を合併します 膵がん 胆管がんなどとの鑑別が重要です 高γグロブリン血症 高IgG血症 高IgG4血症 自己抗体を高頻度に認め IgG4関連疾患の膵病変と位置づけられています ステロイドが奏功しますが 再燃しやすく 長期予後は不明です @2型 わが国では極めてまれで 2~5%に過ぎません 1 型と異なり 急性膵炎様症状で発症し 再燃はまれです ステロイドに反応する閉塞性黄疸や腫瘤を認めますが 病態生理や病理組織学的は1型と全く異なり 好中球が小葉間膵管上皮を破壊する 好中球上皮病変(GEL)が特徴的です 男女差はなく 比較的若年者にみられ 時に炎症性腸疾患をともないます 長期予後は不明です <疫学> 慢性膵炎の約2~5%を占めます 疾患概念の確立とともに 患者数は近年増加傾向にあり 総患者数は 2011年の全国調査で5700人 2016年は13500人です 60歳代に発症のピークがあり 男女比は3:1程度で 男性に多い IgG4関連疾患のなかでは AIPは唾液腺のMikulicz病とともに 最も多く見られます <病因> 免疫遺伝学的因子を背景に 種々の環境因子 自然免疫や獲得免疫などの免疫学的因子が 発症と病態形成機序に関与することが推定されています @疾患感受性遺伝子 *HLA-ハプロタイプ(DRB1*0405-DQB1*0401) *TNF-α調節遺伝子 *ATP-binding cassette sub-family F(ABCF1)遺伝子 *Fc receptor-like 3遺伝子 *CTLA4;CD152遺伝子 *カリウムイオンチャンネルタンパク遺伝子(KCNA3) などが同定されています @血清IgG4値 AIP における血清IgG4の上昇が 病因なのか 抑制に関わっているのか 単なるバイスタンダー現象なのかは まだ結論が出ていません 天疱瘡 特発性膜性腎症 後天性血栓性血小板減少性紫斑病 抗MuSK抗体陽性全身型重症筋無力症などでは IgG4型の自己抗体の病因への関与が報告されていますが AIPについては不明です IgG4は 補体結合性はなく 炎症や病態に対する直接的な働きというより 調節機序に関与しているのではないかと推察されています IgG4のFc部位が 容易に乖離・結合することより むしろFab arm exchangeという現象を介して アレルゲンとIgE抗体の反応を阻止する 遮断抗体としての機能があると考えられます また IgG1 IgG2 IgG3などと Fcを介して結合することより リウマチ因子のような性格も示唆されています @疾患関連抗原・抗体 結合組織構成成分と関連する3種類の自己抗原が 新たに同定されて 注目されています *annexin A11 IgG1 IgG4サブタイプの自己抗体を それぞれ約10% 20%に認めます *laminin 511 約半数の患者で抗体陽性で 陽性例では陰性例に比べ 膵臓頭部の病変 アレルギーの合併 悪性腫瘍の合併が 有意に少ないと報告されています *galectin-3 患者の約30%に 抗galectin-3抗体を認めます @リンパ球 病巣局所では IL-10 Th2 サイトカイン(IL-4 IL-13)の発現増強を認め 病態形成におけるTh2免疫関与の重要性が示唆されています 一方 免疫反応を制御するリンパ球について 胸腺由来の n-Treg CD19+CD24hiCD27+Bregの減少が発症に関与し 末梢で誘導される メモリーi-Treg CD19+CD24hiCD38hi・Bregの増加が 局所での病態制御に関与すると 報告されています 胸腺由来のICOS陽性i-Treg Bregは IL-10産生により Bリンパ球のIgG4産生クラススイッチを促進し 末梢で誘導されるICOS陰性Tregは TGF-β産生を介して線維化を促進する可能性が 考えられています @M2マクロファージ pDC TLR-7などのTLRを発現したM2マクロファージ 形質細胞様樹状細胞(pDC) が病巣に浸潤していて 線維化やTh2免疫への関連が示されています @好塩基球 特定のTLRを発現した活性化好塩基球が 病巣に浸潤し末梢血で増加しています このように AIPにおいては 自然免疫細胞のTLR/NLR 経路の活性化により BAFFシグナル伝達経路を介し B細胞のIgG4産生が促進されるという TregからのIL-10を介する経路とは全く別の IgG4産生調節機構が存在する可能性が考えられています このあたりは かなり免疫オタクの解説でした(苦笑)
高橋医院