「個人向け遺伝子検査」を理解するための
基礎的事柄を解説してきましたが

あらためて巷に出回っている検査キットを俯瞰してみると
実に多種多様なものがあります

太りやすさ 前回紹介したアルコールの強さといった
体質に関するものがいちばん多く

糖尿病などの生活習慣病関連のものもよく見られます

遺伝子検査キットの写真

さまざまな検査キットが対象としている疾患は
合わせると300種類以上もあるそうで

2013年の経済産業省の報告によれば
実に700社以上の企業や機関が関連しており
まさに一大マーケットとなりつつあるようです

某経済誌にでていましたが
日本ではかなりの業界大手も参画しています

遺伝子検査の価格表

で 個人向け遺伝子検査の管轄官庁は
厚生労働省でなく経済産業省なのですね 

それが意味するところは?(笑)


さて 今まで解説してきたように
それらの多くが疾患関連SNPの解析を行っていますが

得られた結果をどのように解釈 評価すべきかは
とても重要なポイントです


まず勘違いしないように注意すべきことは

疾患関連SNPが意味することは
その病気の人のグループでは
健康人のグループと比べて
その遺伝子の特定のSNPタイプの出現頻度が高いということで

そのSNPタイプの人は
必ずその病気になるわけではない

そのSNPタイプではない人は
絶対にその病気にならないわけでもありません

つまり疾患関連SNPが陽性であるということは
ある病気になるリスク因子とは言えますが
決定因子ではないということです

リスク因子 決定因子の説明

また 多くの病気は
遺伝因子と環境因子が関与する
多因子疾患であることを説明しましたが

関与する遺伝因子も環境因子も
1種類だけでなく複数存在するのです

ひとつの病気に
複数の疾患関連SNPがあることがほとんどなので
そのうちのひとつのSNPの結果だけで
評価するのは難しい

複数ある疾患特異的な疾患関連SNPのうち
いくつかが陽性の人は ひとつだけが陽性の人に比べると
病気になる確率が何倍も高くなることが報告されています


こうした事実を鑑みて
結果を過大評価したり過小評価することがないように注意する
必要があります

また 同じ肥満に関する検査でも
会社によって選ぶ遺伝子の種類が異なっていたり
同じ遺伝子でも会社によって
判定に用いる学術論文が異なったりします

学会が責任をもって作成した
ガイドラインのような指標があって
それに準拠して検査や判定を行っているわけではないので

極端な話
同じSNPの解析をしていても
会社によって結果が異なることもあり得るかもしれません

2013年11月には
アメリカの医療検査などを監督する権威あるお役所の食品医薬品局(FDA)が
「遺伝子検査の結果が間違っていた場合や
 利用者が検査結果を適切に理解しなかった場合に
 深刻な問題が生じる懸念がある」
との警告を この業界に発したこともあります

このコメントでも言及されているように
利用者の適切な理解も問われているのです

さらに日本では
先の経済産業省のレポートに
遺伝子検査業者を選ぶ際のチェックリストとして
・判定の科学的根拠について説明している
・判定は同じ遺伝子の特徴を有している人の
 一般的傾向であることを示している
・ホームページなどで説明資料と同意書を得ることが出来る
・検査結果に基づく商品販売などの
 有償の二次的サービスの有無を明示している
・二次的サービスは拒否でき
 サービスの科学的根拠も明記してある
・事業が準拠しているガイドラインの名前が明示されている
・遺伝子の検査をする機関名が明示されている
・検査の前後でのカウンセリングなど相談に乗る仕組みがある
といったことが示されています

やはり 厚労省が監督する類のものではまだなくて
経産省が健全なビジネスとして育成していこうとする
範疇のものなのでしょう


では わざわざ高いお金を払って
個人向け遺伝子検査などしても
意味がないのでしょうか?

書き手は 全く意味がないことはないと考えます

特に肥満や生活習慣病に関する検査で陽性になった場合は
「将来 太ったり病気になるリスクがある」と
ご自分で認識されることで
生活習慣を見直したり改善するきっかけや動機づけに
していただければ有意義だと思います

逆に ある検査で陰性になったからといって
安心してしまい
調べていない他のリスクが隠れているかもしれないのに
乱れた生活習慣の日々を過すことで
本当に病気になったり太ってしまう

という逆のパターンもあり得るので注意が必要です

最後に 
決して安い検査ではありませんから
コストに見合うかどうか

その判断は あなた次第です!(笑)


高橋医院