肥満と食塩感受性高血圧
過剰な塩分の有害性について説明しましたが 塩分と血圧の関係について もう少し詳しく解説します 食塩感受性高血圧 という概念があります 食塩の摂取により 体内のホルモンバランス 腎臓での水分や塩分(ナトリウム)の出し入れが変動し それにより血圧が上昇する病態を示します 食塩感受性は 有るか無いか 0%か100%のどちらか というものではありません ヒトによって 感受性が強い人もいれば弱い人もいる 90%の人もいれば10%の人もいる といったイメージでとらえてください 上図の オレンジ色の線の人は 青色の線の人に比べると 塩分摂取量が一定量増した際(横軸の変化)の 血圧上昇の度合い(縦軸の変化)が より大きいので オレンジ色の人は青色の人より食塩感受性が強いわけです 食塩感受性が強い人は 塩分摂取量増加に敏感に反応して血圧が上がる 欧米人に比べると 日本人は食塩感受性が強い人が多く 日本人の高血圧患者さんの40%ほどは 食塩感受性が強い 一方 感受性が弱い人は 食塩摂取による血圧変動の影響をあまり受けない 日本人の高血圧患者さんの60%は 食塩感受性はそれほど強くない 食塩感受性の強さも これまで何回も登場してきた 「遺伝因子と環境因子」により規定されます 遺伝因子に関しては *両親のいずれかが食塩感受性高血圧だと 子供も同じ傾向を示しやすい *血圧調節に関わるホルモン系を制御する アンギオテンシン変換酵素の遺伝子多型が関与する といった報告があります 遺伝子多型 覚えていますか? 興味深いのが環境因子です なんと 肥満が食塩感受性を増大させる重要な環境因子 なのです! *非肥満の人は 食塩を摂取しても血圧は上がらないが 肥満の人は食塩をとればとるほど血圧が上がる *肥満の人は 摂取する塩分量を控えると血圧が著明に下がりやすい *減量すると 食塩感受性は弱くなる *メタボリックシンドロームの人でも 同様の傾向がみられるだけでなく 食塩摂取量が増えると 心臓や腎臓の障害の頻度が増える といった成績が報告されています 肥満と高血圧は こんな機序でつながっているのですね! 肥満やメタボの人が 食塩感受性高血圧になる機序としては *肥満によるインスリン抵抗性が 腎臓でのナトリウム再吸収を亢進させる *腎臓でのナトリウム再吸収を亢進させる 副腎ホルモンのアルドステロンが高い といったことの関与が考えられています (アルドステロンについてはまた稿を改めてご紹介します) さて 肥満以外に食塩感受性を増強させる要因としては *歳をとっている *女性 *腎障害がある *糖尿病がある *脂質代謝異常がある *ストレスが強い といったことがあります 糖尿病や脂質異常症が ここでも顔を出してきますから 生活習慣病の方の高血圧は 食塩感受性高血圧である可能性があります では なぜ食塩感受性高血圧が取り沙汰されるかというと 食塩感受性高血圧は 危険な高血圧だからです! 食塩感受性高血圧の人は そうでない人と比較すると *心臓病や脳卒中を発症するリスクが 2倍以上も高い *夜間血圧が下がらなくなり それ自体が心臓病や脳卒中のリスク因子になる (夜間血圧については あとでまた詳しく説明します) *1日の総心拍数が増加し それ自体が心臓病や腎臓病のリスク因子になる といった事実が明らかにされています ですから 食塩感受性高血圧の患者さんは しっかりと血圧の管理をする必要があります 特に夜間血圧の管理を行うことが重要です もちろん日常生活での徹底した減塩が 前提になることは言うまでもありません 食塩感受性がどの程度かは 一定量の食塩水を決められた時間内に点滴した際の 血圧変化を評価しないといけないので そう簡単にはわかりません しかし 肥満 糖尿病 高齢などの 食塩感受性高血圧の危険因子がある方は まず充分な減塩を心掛けるべきです また 既に降圧薬治療を開始されているが その効果がもうひとつ という方も ご自分が食塩感受性高血圧である可能性を 考えた方がよいでしょう というのも 食塩感受性高血圧は 降圧薬の効き目が悪いことがあるからです 特に現在多く使用されている降圧薬は 血圧調節ホルモンの レニン・アンギオテンシン系に作用するタイプの *ACE阻害薬:アンギオテンシン変換酵素阻害薬 *ARB:アンギオテンシンⅡ受容体ブロッカー で 肥満やメタボの方の高血圧には このタイプの降圧薬がよく使われますが 食塩感受性高血圧では このタイプの薬だけでは 充分な降圧効果が得られないこともあり そうした場合は 少量の利尿剤を併用すると うまくいくことが多いのです ということで 現在服用中の降圧薬の効果について 不安に思われている方 特に肥満 糖尿病 高齢などの方は 食塩感受性高血圧の可能性があります 是非 主治医に相談されてみてください
高橋医院