糖尿病治療の新たな主役・インクレチン
食後高血糖の恐ろしさについて説明しましたが その厄介な食後高血糖をコントロールするだけでなく 肥満まで改善するかもと期待されているのが インクレチン(Glucagon-Like Peptide-1:GLP-1) 以前に解説した腸内細菌叢の話題のときに 腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸が分泌を促す注目ホルモン として紹介しましたし スローカロリーフードによる インクレチン分泌の促進もご紹介しました <インクレチンのインスリン分泌促進作用の特徴> 食事栄養素(糖質や脂肪酸)の 消化管への流入により 小腸下部のL細胞から分泌されるホルモンで 膵臓のβ細胞に働きかけて インスリンの分泌を促します こうして食後高血糖を抑えますが このインスリン分泌の刺激の仕方に 大きな特徴があります インクレチンの作用には 血糖依存性があり 血糖値が高いときには インスリンを分泌刺激作用を示しますが 血糖値が低いとき(80mg/dl以下)のときは インスリンを分泌させません 血糖値の状態を感知しながら あたかも調整役のように働くので 副作用としての低血糖が出現することなく 安全に食後高血糖の改善を図れます つまり 血糖が高いとき すなわち本当にインスリンが必要なときにだけにしか 分泌を刺激しないので 従来の薬のように むやみにβ細胞を刺激して 疲れさせてしまうことがないのです <インクレチンの多彩な作用> さらにインクレチンが魅力的なのは インスリン分泌刺激以外の さまざまな有益な機能を有していることです @インスリンを分泌する膵β細胞の増殖 分化促進作用 これまでの糖尿病治療薬には β細胞が減るのを防ぐ作用はありませんでしたから 画期的な作用と言えます @膵臓のα細胞から分泌されるグルカゴンの分泌を抑制 グルカゴンは インスリンとは反対の血糖値上昇作用があり 糖尿病患者さんでは増加しています ですからインスリン分泌促進だけでなく グルカゴン分泌抑制作用も併せ持つのことは 凄いことなのです このグルカゴン分泌抑制作用により 食後高血糖だけでなく 空腹時血糖も低下させると考えられています @中枢神経に働きかけて食欲を抑制する この作用を発揮するには インスリン分泌刺激より高濃度が必要ですが アメリカでは 高濃度のインクレチンの 食欲抑制・抗肥満作用が確認されています @食物が胃から腸に排泄されるのを遅らせる作用 スローカロリー的な要素も有し 食後高血糖抑制に別の機序から貢献します <新たな糖尿病治療薬としてのインクレチン関連製剤> この有益なインクレチンの分泌や効果が 糖尿病患者さんでは低下しているとの報告もあるため インクレチンは有力な糖尿病治療薬として 注目されてきました 現在 糖尿病患者さんの治療に用いられているのは *GLP-1アナログ *DPP-4阻害薬 というふたつのカテゴリーの薬です インクレチンは分泌されて血中に出ると DPP-4という分解酵素の働きにより分解されてしまい その血中半減期は2~5分程度と短いのです @GLP-1アナログ そこでインクレチンのアミノ酸配列を人為的に変更して 働きはそのままで DPP-4による分解を受けにくくした人工合成ペプチドが GLP-1アナログで その血中半減期は12分に延長されています ペプチドなので 飲み薬として飲むと胃の中で分解されてしまいますから 1日1~2回皮下注射します ビクトーザ バイエッタといった名前の薬があり 当院でも多くの患者さんが使用されています @DPP-4阻害薬 インクレチンを分解するDPP-4の働きを 抑えてしまおうとするのがDPP-4阻害薬です 注射薬でなく飲み薬ですから 普通の薬と同じように服用できます ジャヌビア エクア ネシーナ テネリア スイニー といった名前の薬があり こちらも当院でより多くの患者さんが服用されています このようにGLP-1アナログ DPP-4阻害薬は 従来の糖尿病治療とは作用機序の異なる新たな薬で インスリンを分泌するβ細胞に 優しい薬であることが大きな特徴です β細胞を刺激する薬で 過度に刺激するあまり疲弊させてしまっては 元も子もありません GLP-1アナログ DPP-4阻害薬は 単独・多剤との併用を合わせると 今や糖尿病患者さんの60%ほどの治療に用いられています 当院の糖尿病専門医は この新しい薬のノウハウを熟知していますので 興味をお持ちの方は遠慮なくご相談にいらしてください
高橋医院