太るかどうかは 生まれる前に決まる?
「成人病の胎児起源説」 という説があります ある人が 将来 太りやすい 生活習慣病になりやすいかどうかは お母さんのお腹にいる間に決まる という考え方です この説を裏付ける有名な研究が 第二次大戦中にオランダで行われました 当時オランダは食糧不足で 妊婦さんたちの栄養状態がとても悪かった そして そうした低栄養のお母さんから 生まれた子供たちは 成長してから高率に 肥満・糖尿病・高血圧になったというのです 一方で マウスを用いた実験では お母さんが肥満だと 生まれてきた子供が 将来 肥満になる確率が高いことも 明らかにされています つまり お母さんが赤ちゃんを お腹で育てているときの栄養状態が 生まれてくる子供が 将来 肥満や成人病になるリスクに 影響している えっ そうなの? では どうして そんな現象が起こるのでしょう? お母さんの栄養状態が悪いと お腹のなかの赤ん坊は 倹約型 つまり食べた栄養素を体内に貯めこむので太りやすい 体質を獲得すると考えられています そして そうした体質を持って生まれてきた子供が 大人になって飽食な状況で生活すると 栄養分を体内に溜めこんでしまうので 肥満や生活習慣病になってしまう 以前 日本人は先祖が飢餓状態で生活していた時期が長かったので 欧米人に比べ 倹約型の体質を獲得し糖尿病になりやすいことを 説明しました それは民族としての集団が持つ遺伝的な特徴で そのような体質を有する日本人が 現代の飽食の時代に生活しているので 糖尿病が増えてしまう これに似たようなことが 個人レベルでも 起こり得る 胎内環境により 栄養素の代謝に関わる個人の体質が 決定される ということです このような体質を 「メタボリック・メモリー」 と呼びます 以前に説明したように 体質には 遺伝子多型などの遺伝子の変化が 関わることが多いのですが このメタボリック・メモリーの獲得にも あるタイプの遺伝子変化が関与していると 考えられています それが「エピジェネティクス」です 専門用語を用いて表現をすると 「太りやすい 生活習慣病になりやすい体質は 胎児期の栄養環境による 代謝関連遺伝子のエピジェネティクス修飾により 獲得される」 ことになります 獲得された 代謝関連遺伝子のエピジェネティクス修飾が 生まれたあとも 長期間にわたり維持・記憶されるため 大人になってから肥満になりやすい エピジェネティクス? なんだか舌を噛みそうだけど いったいそれは何だ? エピジェネティクスについては 次回から詳しく説明しますが 簡単に言うと 「遺伝子のメチル化」という現象が大きく関わった 遺伝子の発現調節機構です たとえば お母さんのお腹にいるときに 栄養が足りなかった赤ん坊は *栄養素の代謝に重要なIGF2という分子の DNAのメチル化が減少している *レチノイドX受容体の DNAのメチル化が増加している という現象が起こり この変化が大人になるまで維持されていて 肥満に関わっている 一方 肥満マウスのお母さんから生まれた子供は PLGL1 レプチンといった 代謝に深く関与するタンパク質の DNAのメチル化が変化している これらの事実が 「胎児期の栄養環境による 代謝関連遺伝子のエピジェネティクス修飾により 太りやすい 生活習慣病になりやすい体質が 獲得される」 ことを示唆しているわけです 自分がまだ お母さんのお腹のなかにいるときに お母さんの栄養状態によって 自分の遺伝子が修飾されて それで体質となって 自分が大人になったときに 生活習慣病になりやすいか決まってしまう? ちょっとショッキングなお話ではありませんか? 書き手はこの話を最初に知ったとき かなり興奮しました(笑) では遺伝子のエピジェネテイクス制御って いったい何なのでしょう? 次回以降 詳しく説明していきますので 興味がある方はお楽しみに!
高橋医院