初めての荒事
成田屋・市川海老蔵さんの ドキュメンタリー番組を見たり インタビュー記事を読んで 一度ナマで観てみたいと思っていた 市川宗家のお家芸の「荒事」を 遂にナマで観る機会がありました これまでにも何回か 歌舞伎には行きましたが 荒事は まだ一度も観たことがなかったのですよ 荒事 元禄時代に初代市川團十郎さんが創められた 荒々しくて豪快な演技で (今の海老蔵さんの十三代前の ご先祖様になるのかな) 上方歌舞伎の 人情・世話物に対する 江戸歌舞伎の売りとして 江戸の人々から大いに好まれたそうです 顔には派手な隈取をして 仰々しい衣装をまとい 大業に見得をきったり 豪快に六方を踏んだりする ナマで観たら どんな迫力か楽しみです 場所は 新橋演舞場 演目は 車引 弁天娘女男白浪の白浪五人男 に 最後が 成田屋さんのお家芸の 歌舞伎十八番のなかの 七つ面 いずれも 初めて観る演目です 実はこの舞台を観にいったのは1月でしたから (レポートが遅くなって恐縮です) ロビーには白浪五人男の 美しい羽子板が飾られていましたし 着物姿の艶やかな女性も たくさんおられて さすがは海老蔵さんの舞台らしい 華やかさだと感じました 車引は 松王丸 梅王丸 桜丸 の武士3兄弟が 敵味方に分かれて争う筋ですが 中村獅童さんが松王丸 市川右近さんが梅王丸に扮して 派手な隈取姿で荒事を演じられます 書き手は 右近さんの独特のセリフ回しが とても気になりました 海老蔵さんのドキュメンタリー番組にも 右近さんは出られていて その舞台稽古の場面でも感じましたが セリフの抑揚がとても特徴的で 日本語を聞いているというより まるでアメリカ南部の黒人がしゃべる英語を 聞いているような節回しで これが 妙に耳に残るのですよ いちど聞いたら 忘れられなくなり また聞きたくなる(笑) でも 正直言って 車引で演じられた荒事は それほど胸を打つものではなかったかも 書き手には 荒事を楽しむレセプターがないのかもしれません 白浪五人男は 「知らざあ 言って 聞かせましょう」 という有名なせりふで 娘に化けた弁天小僧が啖呵を切る有名な演目で 盗賊の白浪五人衆が勢ぞろいして 名乗りをあげるシーンも有名ですが 再度 うーん 書き手のレセプターには響かなかったかな 海老蔵さんが演ずる弁天小僧が 寺の山門の大屋根で 追手と大立ち回りをする場面は 舞台装置が立体的に変化して 屋根から弁天小僧が飛び降りたり 立ち回りがアクロバテイックだったりで ビジュアル的には 観ていて楽しめました 最後の出し物の 七つ面が いちばん印象的だったかもしれません 第二世の市川團十郎さんが 1740年に初演されたもので それ以来 長らく上演されていなかったものを 7年前に海老蔵さんが復活上演されて 今回 再度演じられました 翁 般若 姥 童子 若女 武士といった 7種類の異なる能面のようなお面を 瞬時に付けたり外したりしながら コミカルに踊る模様が 観ている方は 面白くて楽しくて なかなか笑えるのですが 演じる方は 老人 子供 凛々しい武士 小賢しい悪党 雅な女 夫婦喧嘩に興じる男女と 異なるキャラクターを 瞬時に踊り分けなければいけないわけで かなりの技量が求められる 大変な仕事なのでしょう 海老蔵さんは 成田屋さんのお家芸の歌舞伎十八番のなかで 最近は演じられたことがない演目を 今回の七つ面のように復活させる試みを 精力的にされているようですが そういえば 澤瀉屋の猿之助さんも お家芸の猿之助四十八撰を 順番に復活上演する試みをされていたし こういう先祖代々のお家芸を 大切に残していこうとする取り組みは まさに伝統芸能の継承者しか 行うことができないわけですから 大変だろうけれど なんとなく羨まし気もしました ということで 初めての荒事 荒事だけを もう一度観に行きたいかと聞かれたら 返答に困る気もしましたが また機会があったら 海老蔵さんの舞台は観てみたいと思いました
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