ミトコンドリアDNA
エネルギー産生工場としてのミトコンドリア について紹介しましたが 書き手がミトコンドリアと聞いて思いだすのが 「パラサイト・イブ」 という小説と映画です 愛する奥さんを事故で亡くした 主人公の科学者が その遺体の肝臓の一部から 細胞を培養して育てていくうちに 彼女のミトコンドリアが 自立し反乱するというSFホラーで 映画版では 当時 魔性の女と呼ばれ大人気だった 葉月里緒菜さんがヒロインを演じていました 彼女 最近全く見ることがありませんが どうしているのかな? (別に里緒菜さんのファンだった というわけではありませんよ:笑) で 映画では 自律増殖したミトコンドリアが それこそ酸素を吸って莫大なエネルギーを放出して 街を破壊するのですが ミトコンドリアが 酸素を利用してエネルギーを産生するのは 前回ご紹介した通りですから 決して荒唐無稽なストーリーではありません そして ミトコンドリアが自立するというアイデアも 荒唐無稽なものではないのです というのも ミトコンドリアは 現在の形のヒトの細胞が出来上がる過程で ヒトの細胞に侵入して寄生というか 共存関係を作ったと考えられているからです いわば 「自分の中の他人」のような性質が ミトコンドリアにはあるのです ミトコンドリアは 細胞の中に存在する細胞内小器官のひとつです ちなみに ミトコンドリアなどの細胞内小器官を研究する分野が 細胞生物学で 書き手は医学生の頃 細胞生物学は好みの科目でした(笑) で ミトコンドリアは 外膜と内膜の二重の生体膜からなる構造 をしています ひとつの細胞あたり 数百~数千個存在していて エネルギーをたくさん使う細胞では ミトコンドリアの量が多い 骨格筋や心筋では 特に多いと言われています 細胞内を絶えずダイナミックに動き回り それぞれのミトコンドリアが くっついたり離れたりを繰り返していて *活動期には 丸い粒がいくつかつながり 糸のようになって活動している *休止期には ひとつひとつの粒がバラバラなこともある ミトコンドリアは 自らが産生する活性酸素により ダメージを受けているので 健常な他のミトコンドリアとくっついて 成分を交換して回復を図っているようです 活性酸素は 老化などにも関与するとても興味深い物質で ミトコンドリアとは切っても切り離せませんが また別の機会に詳しく説明します ミトコンドリアが 他の細胞内小器官と異なる最大の特徴は 自らの独自のDNA(ミトコンドリアDNA)を 有していることです はるか昔 ミトコンドリアが自立していたことの 証左でもあります ミトコンドリアDNAは ヒトの核に存在するDNAと比べると はるかに規模が小さく 20万分の1程度で エネルギー産生に関わる 電子伝達系やATP合成酵素などの ミトコンドリア独自の機能に関わる ごく少数のタンパク質の鋳型となる 限られた遺伝子を有しているに過ぎません 核のDNAが23000種類ほどのタンパク質を作るのに対し ミトコンドリアDNAは たった13種類のタンパク質を作るだけです それでも 核のDNAとは異なる 独自のDNAを有しているのは とても特徴的なことです ちなみに このミトコンドリアDNAの解析により 人類の祖先がアフリカから発生してきたことなどが 解明されました 独自のDNAを持ち 独自の働きで利用するタンパク質を作っている ミトコンドリア そんなミトコンドリアが どうしてヒトの細胞のなかに存在するに至ったかを 次回 説明したいと思います
高橋医院