機能性ディスペプシアの治療目標は

患者さんが納得・満足しうる 
充分な症状の改善を得ることです

機能性ディスペプシアの患者さんは
胃の症状のつらさで
生活の質・QOLが低下しているわけですから

治療により 
生活の質をもとのレベルに
引き戻してあげたい

機能性デイスペプシアの症状による生活の質の低下に悩む患者さん

血液検査データなどの具体的な数値で
治療効果が判断される他の病気との
大きな違いです

<良好な医者と患者の信頼関係を築くこと>

もうひとつ
機能性ディスペプシアの治療で
他の病気と大きな違いがあるのは

薬物治療でのプラセボ効果が
とても大きいということです

プラセボは
薬物の治療効果を判定する臨床試験で
本当の薬物の代わりに投与される
まったく薬理効果がない偽薬のことです

例えば 糖尿病や高血圧の患者さんに
「このお薬は本当によく効きますから」
と充分に説明して
プラセボを投与しても 
効果は全く認められません

しかし
症状の発現に精神的要素が
大きく影響しているときは
「よく効くお薬ですから」と説明して
プラセボを服用していただくと
症状の改善が見られることがあります

これが プラセボ効果です

プラセボ効果を示した図

機能性ディスペプシアの場合は
プラセボの投与により
40~50%の有効率が認められるそうで

このことは
機能性ディスペプシアの症状発現への
心理的要素の関与がいかに大きいか  
を物語っています

そして 治療にあたって
医師が患者さんに
病気や治療についてどれだけ詳しく説明していて
両者の信頼関係がどれだけ成立しているかが
治療効果に大きく影響することも
物語っています

医者と患者との信頼関係を示したイラスト

実際に 
医師が機能性ディスペプシアの患者さんに

この病気は胃の機能の変調で起こっている病気であって
症状はつらいかもしれないけれど
生命予後に影響する可能性は少ないこと
を説明すると

それだけで患者さんの症状が改善することが
珍しくありません

機能性ディスペプシアの治療は
かなりデリケートな要素を有しているのです


<まずは 生活習慣の改善を>

さて 実際の治療ですが

薬物治療を行う前に
食生活や生活習慣の改善の指導を行います

暴飲暴食のない 規則正しい食生活の励行
コーヒー・アルコールなどの嗜好品をなるべく控えるようにする
ストレスの発散や 十分な睡眠をとるような指導
などを行い 症状が改善するか見守ります

*胃に負担をかけない食生活・生活習慣を
 身につけましょう

*できるだけ決まった時間に
 食事をとるようにしましょう

*よく噛んで ゆっくり食べましょう

*食事の量は腹八分目にしましょう

*食後には休息をとりましょう

*睡眠を十分にとり
 ストレスや疲れをためないようにしましょう

*適度な運動をしましょう

*アルコールのとり過ぎに注意しましょう

*禁煙を心がけましょう

こうしたことが
食事や生活習慣のポイントになります

機能性デイスペプシアの食事や生活習慣の改善ポイントをまとめた図


<薬物治療>

食後の胃もたれや
食後早期の満腹感などの症状(食後愁訴症候群)
に対しては
消化管運動改善薬
(ガナトン プリンペラン ガスモチンなど)が

心窩部痛や心窩部灼熱感等の症状(心窩部痛症候群)
に対しては
胃酸分泌抑制薬

それぞれ第一選択薬として用いられます

機能性デイスペプシアの治療に使用される薬物

また 日本では数年前から
アコファイドという
世界で初めて機能性ディスペプシアの保険適応を取得した
消化管運動機能改善薬が
日常診療で用いられるようになりました

当院でもアコファイドを服用して
症状の改善を認めている患者さんが
何人もおられます

アコファイド錠

こうしたお薬で症状が改善せず
背景に精神・心理学的な問題を有していると
思われる患者さんには

抗不安薬を用いたりします

最初のお薬が効くかどうかは
約4週間の投与で判断して

有効性が認められた場合には
薬の服用を中止することも可能です

機能性ディスペプシアの生命予後は
とても良いですし

数年の自然経過で約50%が
症状消失するとも言われており

前述したように
胃の内視鏡検査を行い
基質的な病変の存在を否定したのちに
機能性ディスペプシアの病態を詳細に説明すると
約1/3の患者さんは安心されて症状が消失する
とも言われています

医師も患者さんも 
うした事実をよく把握して
良好な関係を作り
一緒に治療に取り組んでいくことが大切と
思われます
高橋医院