ストレスと機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアの つらい症状が生じる原因として 胃の運動障害と内臓知覚過敏 についてそれぞれ説明しましたが 機能性ディスペプシアをはじめとする 機能性胃腸障害の患者さんは 高率にうつ状態や不安障害を合併しているのが 大きな特徴です <ストレスが機能性デイスペプシアの原因になり 機能性デイスペプシアがうつや不安を増大させる> つまり *胃の運動障害 内臓知覚過敏といった 身体的要因と *心理的・社会的ストレスによって 引き起こされる心理的な要因が 相互に関連しあって病態が形成され 症状が起こるのです だからこそ 機能性ディスペプシアの患者さんは 高率にうつや不安障害を合併され *うつや不安障害があると 機能性ディスペプシアの症状がひどくなり *機能性ディスペプシアの症状がひどいと うつや不安障害が起きる まさに悪循環です <脳腸相関 が病態に関与する> 前回 ご説明しましたが 脳と腸管は深い関係があります 不安やストレスがあると 脳がそれを感じ 脳で生じた変化により 消化管の運動に変化が生じて 胃や腸の症状が起こります 一方 胃や腸の具合が悪いと その知覚異常は脳に伝えられ 脳の活動性に影響を及ぼします このように 脳と胃腸は相互に影響を及ぼしあっていて そうした現象が 脳腸相関 として注目されてます だからこそ 不安 幼少時の虐待歴などの心理的要因や さまざまな社会的ストレスが 機能性ディスペプシアの病態 症状に 大きく影響を及ぼすわけです 機能性ディスペプシアの奥の深さを イメージしていただくことが できたでしょうか? <症状に影響を及ぼす因子> @アルコール 喫煙 不眠 などの生活習慣 @食事摂取パターンの乱れ による症状の増悪が指摘されており それらの改善により 機能性ディスペプシアは良くなります @食事因子 食事内容の関与も明らかにされていて 機能性ディスペプシアの患者さんは 高脂肪食で 膨満感 吐き気などの症状が出やすい カプサイシンで症状が増悪する ことが報告されています @自律神経 自律神経の乱れの関与も報告されています 機能性ディスペプシアの患者さんは 副交感神経系の低下 相対的な交感神経系の亢進 を認めることがあり 自律神経バランス異常のある患者さんでは ない患者に比べて 消化器症状が強く出現する傾向を認めます また 副交感神経の活動低下は 神経症傾向やうつと関連があるようです こうした自律神経障害は 偏りのある生活習慣により引き起こされると 考えられています @ピロリ菌 ピロリ菌との関連も検討されています ピロリ菌に感染している 機能性ディスペプシア患者さんに 除菌療法を行うと 約10%の患者さんで 除菌後6~12ヶ月間で ディスペプシアの症状が消失または改善する という報告があり 今年改訂された 機能性ディスペプシアの診断基準(ROMA Ⅳ)では ピロリ関連ディスペプシアという 独立した疾患概念が認められました また 消化管感染との関連も明らかにされています 急性サルモネラ胃腸炎などの 消化管感染後の 機能性ディスペプシア発症が報告され 感染非経験例に比し 約5倍発症しやすいとされています こうしたタイプの機能性ディスペプシアは 感染症後機能性ディスペプシア というカテゴリーでまとめられ 消化管粘膜に残存する炎症が 知覚過敏を引き起こす可能性 が指摘されています このように 機能性ディスペプシア患者さんの一部は ピロリ菌や他の感染が引き金となって 発症することがあるようで 消化管粘膜の炎症などが どのように病態形成に関わるか興味深いところです ということで まとめますと 機能性ディスペプシアは *遺伝・環境・精神心理学的素因をベースにして *そこに身体的・心理的な外的ストレスが加わり *消化管運動機能に影響を与えることで 消化管機能が障害を受けるので 自覚症状が誘発されると考えられ また *増悪した消化管の自覚症状が 精神心理学的に悪影響を及ぼし *心理的ストレスにより さらに消化管症状が悪化する という負のスパイラル を形成してしまうこともあるようです 今回は説明しませんでしたが 遺伝要因として 機能性ディスペプシアに特異的なSNPも いくつか同定されています もちろん 精神心理学的素因が関与しない 機能性ディスペプシアの患者さんも 多くおられますが 精神心理学的素因が関与するタイプの 機能性ディスペプシア患者さんは 治療に難渋することも少なくなく メンタルや心療内科の専門家との 共同での治療が 必要になることもあります 次回は 機能性ディスペプシアの治療について説明します
高橋医院