胃の知覚過敏と機能性ディスペプシア
胃の運動機能が悪いだけでは 機能性ディスペプシアの症状は 起こってきません もうひとつの要素である 胃の知覚過敏がないと 症状は起こらないのです <内臓知覚過敏とは?> 内臓知覚過敏 というのは *食物が胃の中に入り 胃の壁が物理的に伸展されるときに 生じる刺激 *胃酸や食物の内容により 化学的に胃の粘膜で生じる刺激 に対して 過剰に反応してしまう状態です 実際に 機能性ディスペプシアの患者さんは 胃の伸展刺激 温度刺激による知覚過敏が 35~50%程度に認められ 酸や脂肪による十二指腸への刺激に対する 知覚過敏もみられます このように 機能性ディスペプシアの患者さんは 内臓知覚過敏の状態にありますが 前回説明した 胃の排出能の低下により 胃内に食物が長時間停滞すると 持続的に胃壁が伸展され 食物による化学的刺激に 長時間暴露されることになり 健康な人と比較して より高頻度に刺激にさらされることになります また 適応性弛緩反応も低下していますから 食物により胃の内圧が上昇して 胃壁の過剰な伸展がもたらされる 内臓知覚過敏の状態にある患者さんが 胃の運動機能の異常により 刺激を過度に受けてしまうわけですから 健康な人は何も感じない程度の弱い刺激でも 機能性ディスペプシアの患者さんは 腹部膨満感 早期飽満感 腹部不快感 痛みなどを 感じてしまうのです <内臓知覚過敏が生じるメカニズム = 脳が感じやすい> では どうして 機能性ディスペプシアの患者さんは 内臓知覚過敏なのでしょう? 胃を含めた消化管には 知覚神経や迷走神経が分布していて 消化管で生じた刺激の知覚 消化管の運動 消化液やホルモンの分泌 などに深く関わっていますが 消化管で生じた刺激は 知覚神経や迷走神経により脳に伝えられ 内臓知覚は 現場である胃腸ではなく脳で感じるのです 痛みは胃腸でなく 脳で感じる 言われてみれば 当たり前のような気もしますが イメージできますか? 実際に 胃に食物が入ってきて拡張刺激が起こると 脳の前帯状回 視床 尾状核 島 中脳中心灰白質 といった部位の活動性が高まります そして 機能性ディスペプシアの患者さんは 健康な人と比べて こうした脳での活動性の変化が より軽度の拡張刺激で 起こってしまう つまり 内臓知覚の閾値が低下していることが 明らかにされています ということは 胃や腸だけの問題ではなく 脳にも問題があるということ? <「脳腸相関」という概念と機能性デイスペプシアの関連> はい この点こそが 機能性ディスペプシアをはじめとする 機能性胃腸障害の奥が深いところです この胃腸と脳の関連は 「脳腸相関」と呼ばれ 最近とても注目されています 非常に興味深いところなので 機能性ディスペプシアと過敏性腸炎の解説を終えたあとに 稿を改めて詳しく解説します 以前に解説した 腸内細菌叢とうつ病などの精神疾患との関連にも 脳腸相関は関わっていると考えられています そして この脳腸相関は 機能性ディスペプシアをはじめとする 機能性胃腸障害の患者さんが 高率にうつ病や不安障害を合併されることにも関わります そのあたりを 次回詳しく説明します
高橋医院