過敏性腸症候群の発症機序
過敏性腸症候群は どのようにして発症するか? そのメカニズムについて説明する前に 大腸の生理的な運動 について解説します なにごとも 基本が大切です!(笑) <大腸の生理的運動と 下痢・便秘の関連> 過敏性腸症候群による下痢や便秘は 大腸が過剰に運動することが 主な原因で引き起こされますが 大腸の最大の働きは 内容物の水分を吸収し 固形状の糞便を形成することです 1日に9lの水分が腸管に入り 小腸で6~8l 大腸で1~2lの 大部分が吸収され 糞便は わずか0.1lの水と 分解されにくい食物繊維などの植物残渣 細菌 はがれ落ちた粘膜細胞 などから出来ています 食物残渣を 便にして排出する大腸の運動には ぜん動運動(伝播性収縮)と 分節運動(局所性収縮) があります 大腸に送り込まれた内容物は ぜん動運動と分節運動により 混和されながら 肛門へ向かって徐々に移送されるわけです 便意は *食物摂取により惹起される胃結腸反射 :胃に食物が入ると 腸に情報が伝わり 腸が動き出し便を作る *直腸での便による排便反射 :便が直腸に入ると 直腸がそれを察知し 脳に信号を送る といった一連の反応により脳で自覚され 排便反応が起こります こうした 生理的な大腸の運動に異常が生じると 下痢や便秘になります 腸のぜん動運動が亢進すると 内容物の腸の通過時間が短くなり 水分を充分に吸収できないので 下痢になるわけです 一方 分節運動が強すぎると 大腸が痙攣を起こし 腸管が細くなって 糞便の通過障害が起こるので 便秘になるわけです さて 過敏性腸症候群はどうして起こるか? 近年では *生物学的要因・身体的要因と *心理社会的要因の 両方の要因の重なりによって起こると 考えられています <生物学的要因・身体的要因> *消化管運動能の変調 *内臓知覚過敏 *脳腸相関の異常 *消化管の感染や炎症 腸内環境 があります これらは機能性ディスペプシアでも説明しましたが 大腸でも 上述したぜん動運動や分節運動の変調があり 内臓知覚過敏の状態も存在します 脳腸相関については 後ほど詳しく説明します <心理社会的要因> *周囲の環境やライフ・イベントからのストレス 不安 *幼少期の虐待歴 家族歴 *うつ 不安などの心理社会的障害 があります 心理社会的ストレスにより 消化器症状が発症し ストレスの自覚時に症状が増悪するのが一般的です うつ・不安は 過敏性腸症候群発症のリスク要因となり 逆に機能性胃腸障害であることは うつと不安障害の発症リスクを高めます 過敏性腸症候群が重症化するにつれて 心理的異常の関与度が増し うつや不安により症状が増悪し 精神的治療で症状が改善したりします <食事 生活習慣の乱れ> 食事などの生活習慣の乱れも 発症に影響すると考えられます 原因はストレスだけではなく 生活習慣や食生活の乱れにもあると 考えられるため 症状に合わせて 食事の内容や生活習慣を改善する必要があります 健康な人と比べ 冷たいものや脂っこいもので お腹を壊しやすい傾向があるようです <その他の原因> @腸内細菌叢の乱れ 一方 過敏性腸症候群の発症には 腸内細菌の乱れや 粘膜炎症 も関与しているようです 過敏性腸症候群の患者さんでは 大腸粘膜における免疫細胞数の増加があり 免疫賦活状態にあります また 腸内細菌叢のプロファイルは 病型でも異なることが報告され *腸内細菌叢の産物の有機酸と症状の関連 *プロバイオティクスによる症状の改善 などが明らかとなり 食物アレルギー グルテンの関与も示唆されています @腸管の感染 また 機能性ディスペプシアでは 腸管感染後に発症する場合があることを 説明しましたが 過敏性腸症候群も同じで 感染性腸炎後に発症するケースもあり 全体の5~25%を占め 下痢型で多いとされています 感染後過敏性腸症候群の 発症危険因子は ストレス うつ 60歳未満 女性 喫煙 腸炎持続時間が長いことなどで ベースにうつや不安がある ことが重要と考えられています 腸管での軽微な炎症持続 免疫異常が病態に関与すると考えられ 炎症とストレスの両方が加わることで 腸管の筋層間神経叢の機能が変化し この変化が記憶されて あとで過敏性腸症候群を発症してくる と想定されています このように 過敏性腸症候群も 機能性ディスペプシアと同じで 身体的要因と社会・心理的要因が 複雑に絡み合って発症すると 考えられますが 一部の症例では 感染や炎症が原因となって 発症する場合もあるようです 症状が発現する場が 胃か大腸かで 起きてくる症状も異なりますが 機能性ディスペプシアも 過敏性腸症候群も 基本的には同じような原因で 病態が形成されると考えてよさそうです そして いずれの場合も 社会的・心理的要因が 大きく影響していることが注目されます 次回は 過敏性腸症候群の治療について説明します
高橋医院