胆汁酸
中央区・内科・高橋医院の 健康のための栄養学に関する情報 今日は 胆汁酸のお話をします 胆汁酸 読み手の多くの方は 耳にしたことがないかもしれませんが これまで続けてきた脂質の解説で コレステロールから胆汁酸が作られることを 解説しましたので ちょっと 胆汁酸 について語ることにします 胆汁酸は 肝臓で作られて 胆のうに貯められて 脂ものを食べたときに消化管に分泌される 胆汁の主成分です ですから 肝臓病学で勉強する領域ですが 肝臓専門医の書き手は 学生時代や研修医のときに 胆汁酸について詳しく勉強したことはなく 肝臓専門医の試験を受験するときに 必死に勉強しました(苦笑) というのも 肝臓は 脂質や糖質の代謝に関わったり 体の働きに欠かせない 多くの種類のタンパク質を作ったり 薬物やアルコールを代謝したりで その働きは多岐にわたり また 病気としては A型~E型に至るウイルス性肝炎や 肝硬変や肝細胞がんなどがあったりして 勉強するべきことは多岐にわたるので その中ではそれほど主流ではない胆汁酸は 医学生の時の内科学の勉強では どうしても手が及ばなくなる でも 肝臓専門医の試験のときは 胆汁酸も重要なポイントのひとつになるので そこで初めて本格的に勉強することに なったわけです(苦笑) さて 前置きが長くなって恐縮ですが 胆汁酸について解説します <胆汁酸の働き> 既に説明しましたように 胆汁酸は 肝細胞から分泌される胆汁の主成分で 肝細胞内でコレステロールから合成されて 胆のうに溜められています 脂質を多く含んだ食べ物を食べると それを分解して吸収するために 胆のうから 十二指腸 小腸に胆汁が分泌されます 胆汁の主成分である胆汁酸が持つ 界面活性作用 油を溶かす力により 食物中の脂溶性成分とミセルを形成して 脂質を水に溶けやすくして 吸収を促進させるのです <胆汁酸の合成と腸肝循環> このように重要な働きを有する胆汁酸ですが 体内で腸肝循環と呼ばれる ユニークな動態を示します @一次胆汁酸 まず コレステロールからCyp7a1という酵素により *コール酸 *ケノデオキシコール酸 という2種類の一次胆汁酸ができます 一次胆汁酸の大部分は タウリン グリシンにより抱合され 胆のうを経て腸管に分泌されますが その95%は 小腸の末端の回腸で再吸収されて 肝臓に戻ります これが腸肝循環という現象で 1日に4~12回繰り返されます 肝臓と小腸の間を グルグルとリサイクルされている イメージですね @二次胆汁酸 で再吸収されなかった5%の胆汁酸は 腸内細菌の作用により 抱合型から非抱合型に変換され *デオキシコール酸 *リトコール酸 *ケトリトコール酸 *ウルソデオキシコール酸 といった二次胆汁酸となります このあたりの名前が複雑なので 学生時代 とても憶えづらかったのですよ(苦笑) 二次胆汁酸の一部は大腸で再吸収され 残りは便中に排泄されます <二次胆汁酸は ワルモノ?> 腸内細菌の作用により誘導される二次胆汁酸は *活性酸素産生 ミトコンドリア障害 といった細胞障害作用や *細胞内シグナル伝達を活性化する作用が 一次胆汁酸よりも強いのが特徴です 細胞毒性は リトコール酸(LCA)デオキシコール酸(DCA) などの二次胆汁酸で強く 一次胆汁酸のコール酸(CA)では低い 但し 二次胆汁酸のなかでも ウルソデオキシコール酸(UDCA)は例外で 逆に細胞保護作用を有しています また デオキシコール酸は 大腸がんの発がんに関連することが 報告されていますし 動物実験では 肥満により 二次胆汁酸に変換させるタイプの腸内細菌が増え それにより肝細胞がんの発がんが誘導されることも 報告されています ということで 二次胆汁酸はワルモノ という認識がなされています しかし 全ての二次胆汁酸が生体にとって有害なわけではなく ウルソデオキシコール酸は 他の二次胆汁酸に比べて 有害作用が少ないことが明らかにされています ですから 二次胆汁酸の組成を調節することが重要で そのために 有害作用の強い リトコール酸 デオキシコール酸 などの比率を減らし 逆に有害作用が弱い ウルソデオキシコール酸の比率を 高める目的で ウルソデオキシコール酸は 肝疾患の治療薬として 実際に患者さんに投与されています また 有害な作用を有する二次胆汁酸を 誘導する腸内細菌の同定や そうしたタイプの腸内細菌を増やさない プロバイオティクスの研究も 盛んに行われています ということで 駆け足で胆汁酸について説明してきましたが 最近 胆汁酸は 単に脂質の吸収に関わるだけでなく 糖 脂質 エネルギーなどの代謝に影響を及ぼす 重要な生理活性物質としての働きも 有していることが 明らかになってきました この大変興味深い点について 次回 詳しく説明します
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