中央区・内科・高橋医院の
健康のための栄養学に関する情報


今回から 脂質 の解説を始めますが

脂質を理解するのは 
なかなか一筋縄にはいきません

なにせ 種類が多い

特に脂肪酸には多くの種類があって
栄養学を学ぶ人の多くが 
壁を感じると言われるそうです


では 難敵に挑んでいきましょう!(笑)

脂質は 構造的な違いから

単純脂質 : 中性脂肪

複合脂質 : リン脂質 糖脂質

誘導脂質 : コレステロール 胆汁酸 性ホルモン

の3種類に分類されます

構造から見た脂質の分類

それぞれについて 簡単に説明します


<単純脂質>

最もシンプルな単純脂質である中性脂肪

3つの脂肪酸
1つのグリセロール(アルコールの1種)
で束ねた構造をしています

中性脂肪が3分子の脂肪酸と1分子のグリセリンから出来ていることを示す図

食事から摂取される脂質の大部分は 
分解されて中性脂肪になり

体脂肪(皮下脂肪・内臓脂肪)の
90%を占めます

余ったエネルギーは中性脂肪として皮下脂肪 内臓脂肪に蓄えられることを示す図


脂肪細胞の主要な構成要素で
貯蔵エネルギー源として 
重要な役割を果たします

中性脂肪の備蓄エネルギー量は
フルマラソン20回走れる程度にも及び
単純計算すると
備蓄糖質のグリコーゲンの約20倍です

人類のご先祖様が飢餓で苦しんでいた時代
摂取した栄養素を
せっせと皮下脂肪に貯めこむ体質をつくり

貯めた中性脂肪をエネルギー源に用いて
なんとか生き延びてきたのです

その体質が 飽食の現代では仇となり
糖尿病生活習慣病が増えていることは 
以前にご説明しました

中性脂肪を構成する脂肪酸は種類も多く
多彩な作用を有しているので 
稿を改めて解説します


<複合脂質>

分子のなかに 
リン酸を含む脂質で

複合脂質の構造

親水性の部分と 
疎水性の部分を有し

水にも脂肪にも溶ける性質を
有しているのが特徴です

親水部 疎水部の図示

@リン脂質

疎水性の部分を内側に 
親水性の部分を外側に 
二重層を作り

細胞を外界から隔てる
細胞膜を構成します

細胞膜を構成するリン脂質による脂質二重層構造の図示

細胞膜
細胞が機能する = ヒトの体が機能するのに
とても重要な役割を果たしていますが

リン脂質でできた流動性のある海原に
受容体やイオンチャンネルといった
膜の機能に関わる
さまざまなタンパク質分子が浮かんでいる

そんなイメージです

細胞膜の構造




こうした 
細胞膜に浮かぶタンパク質分子を介して
細胞外の情報が結合して伝達され

その情報が 
細胞内の伝達系を介して核に伝わり

核では 
情報に応じて 
さまざまな遺伝子の発現調節がされ
色々なタンパク質分子が作られて

それらの機能により 
ヒトの体が活動する

ザックリ言うと 
生命活動とはそんなものです


さて リン脂質の代表選手は 
レシチン(ホスファチジルコリン)
2個の脂肪酸とグリセロールに
リン酸が結合しています

脂肪酸が 
脂に親和性のある疎水基

リン酸部が 
水に親和性のある親水基

として機能します

リン脂質の構造

別のリン脂質である
スフィンゴミエリン
神経細胞の
軸索という情報を伝達する突起を包む
ミエリン鞘という鞘の主成分で

この鞘があるおかげで
情報伝達のスピードが上がります


@糖脂質
 
脳や神経に広く分布している脂質で
情報伝達に関わっています

糖脂質の構造



脂質というと
皮下脂肪のイメージが強く

あまり有益な機能は持っておらず
せいぜいエネルギー源として使われる程度と
思われているかもしれませんが

リン脂質や糖脂質は

細胞膜を形成して 
さまざまな細胞の機能発現に関わったり

神経細胞の情報伝達に関わる

といった側面も有しています

意外に複雑な仕事もしているのですよ(笑)


<誘導脂質>

誘導脂質は 
単純脂質 複合脂質から
加水分解で誘導されたものです

コレステロール

亀の甲のようなステロイド骨格が連続する
環状構造をしています

コレステロールの亀の甲のような構造

肝臓で合成されますが

解糖系とTCA回路をつなぐ分子の
アセチルCoA
3分子重合してHMG-CoAになり

HMG-CoA還元酵素により
メバロン酸となり

ここから数段階の反応を経て 
コレステロールが出来上がります

アセチルCoAからコレステロールの合成とその反応に関与するHMG-CoA還元酵素の役割の図示

悪玉コレステロール(LDL-C)が高い
脂質異常症の患者さんが
コレステロール値を下げるために飲まれるお薬の
代表的なものが

HMG-CoA還元酵素の働きを阻害する作用
を有するお薬です


コレステロールは他の脂質と異なり 
エネルギー源にはなりません

その代り

細胞膜成分の材料になったり

ステロイドホルモン
 副腎皮質ホルモン 性ホルモン
 胆汁酸 
 ビタミンD 
 といった生理的物質を合成する材料になります

コレステロールからの細胞膜 ステロイドホルモン 副腎皮質ホルモン 胆汁酸の合成の図示


胆汁酸
 
肝臓から腸管に分泌され 
脂肪の分解吸収に関与しますが

最近は
ホルモンのような働きをして
肥満や糖尿病の治療に貢献する可能性が
明らかになり注目されています

このあたりは いずれ詳しく説明します


また コレステロールというと
悪玉や善玉を思い浮かべるでしょうが
そのあたりも稿を改めて説明します

ということで 
脂質をザッとオーバービューしましたが

糖質に比べると
種類も働きも多様なのが
よくわかっていただけたかと思います

次回は
脂肪酸について詳しく説明します


高橋医院