バロックとジャズ
通奏低音の話を続けます さまざまなコンテクストで 見聞きするこの言葉が 音楽的に意味するところは 延々と演奏される 低音そのものではなく バロック音楽で行われる 演奏形態です *低音部の旋律とともに *即興的な和音を付け加えて伴奏する そのような演奏形態で バロック音楽の根幹をなします 低音を表現する伴奏楽器が 絶え間なく演奏し続けることから この名が付けられたそうです 17~18世紀のバロック音楽の時代は 低音が主体で まず低音進行を決め その強力な低音の支配の上に 和声とメロデイーが構築されたそうで 通奏低音は 当時の音楽の根幹を成すものだったのですね 当時の楽譜は 上にメロデイー 下に低音 の2段構成からなり 低音の段の下には 数字で和音が書き込まれていました この数字は 作曲家が メロデイーにどういう色合いを欲していたかを 演奏家に示唆するもので 和声を奏でる楽器が 和音を演奏する時のヒント になります つまり 数字が意味することは 書いてある音符から 数えて何番目の音を弾いて 和音を作ればよいか ということで チェロやファゴットなどの 旋律を奏でる楽器は 低音を楽譜どおりに演奏しますが チェンバロやオルガンなどの 和音を奏でる楽器は 楽譜の数字を見ながら 和音を即興的に付けて演奏する 左手で 楽譜に書いてある低音を弾きつつ 右手で ドミソ・ドファラなどと和音を弾いていくのです 通奏低音という演奏形態を イメージしていただくことができたでしょうか? ここで興味深いのが 通奏低音 と ジャズ の アナロジーです 通奏低音の楽譜において 数字で示される和音の示唆は 現代のポピュラー音楽における コードの概念にも通じる という話を 色々なところで見聞きしたことがあります つまり ジャズでコードに従って 即興で和音やフレーズを演奏するピアニストは バロック音楽のチェンバロ奏者と 全く同じ作業をしているし ジャズにおけるベースも 通奏低音のチェロなどのように 曲中を通して絶えず演奏されるので その点も バロック音楽と共通しているというのです この指摘を初めて読んだときは なるほど~ と 膝を打ちましたね(笑) そして バロック音楽とジャズを楽しむのは ベースを聴くことが基本で ベースを必死になってよく聴いていると その上に構築されている和音の流れが見えてきて 音楽を気分や雰囲気ではなく もっと構造的に捉えることができる というのです はい 実感があります! 書き手はジャズも好きで よく聴きますが 学生時代の知人がベースをしていたこともあり 神経を集中して ズンズンというベースの低い音を探しながら 曲を聴いていることがあります 確かに そのようにして聴いていると なんだか曲の流れを俯瞰しているような感じがして 面白いのですよ 再度 なるほど~ です! でも バロックの楽曲を 通奏低音に神経を集中させて 通して聴くという意識を 持ったことも経験もありません これは 面白いかも! ジャズは 基本的なメロディーラインとコードが 決まっているだけで あとは そのときの雰囲気を見ながら 即興スタイルで演奏されることが多い それが ジャズの醍醐味でもあります 一方 バロック音楽も後期になると 通奏低音の楽譜に示された数字に基づく範囲ならば かなり自由な即興性が認められた バロック音楽の通奏低音とジャズとの 意外な共通性 しかも その共通性は それぞれの音楽の根幹に関わっている 面白いですよね! メサイアの演奏の最中に 本当に一心不乱に絶えず弓を運ばれ 基軸となる低音を奏でられていた チェリストさんの姿を注視していたおかげで バロックとジャズのアナロジーの 話を思いだし バロック音楽の新しい楽しみ方 聴き方を教わったような気がします 通奏低音 さすがに奥が深いです!
高橋医院