食後高脂血症
食事の影響を大きく受ける 食後中性脂肪値の測定は どのような意義があるのでしょう? <食後高脂血症という病態> さまざまな検討により 空腹時TG値が正常でも 食後TG値が異常高値を示す状態がある ことが明らかにされてきました 通常なら 食後数時間で基準値内に戻るはずのTG値が 長時間にわたって高値を持続する状態です こうした「食後高脂血症」は 糖尿病やメタボの方に多くみられます TGはリポタンパクリパーゼ(LPL)という 酵素により分解されますが 糖尿病やメタボでは このLPLの活性が低下しているので 食後高脂血症になりやすい (このあたりは 次回詳しく説明します) <食後高脂血症は見逃されがち> とくに 健診の空腹時採血では食後高脂血症の状態は 見落とされてしまいますから 要注意です! <食後高脂血症だと冠動脈疾患になりやすい> 驚いたことに 食後TG値が高いと 心筋梗塞や狭心症などの 冠動脈疾患の発症リスクが高いことが 明らかにされました 多数の患者さんを対象にした海外の大規模臨床試験で 食後TG値が200 mg/dl以上の群では 200 mg/dl未満の群に比し 冠動脈疾患による死亡率が有意に高いことが示され 日本でも 約11,000人の方を平均15.5年にわたり追跡調査した結果 食後TG値が 84 mg/dl未満群に比し *84~116mg/dl群では1.67倍 *117~167mg/dl群では 2.0倍 *168mg/dl以上群では 2.86倍 冠動脈疾患の発症リスクが上昇することが 明らかにされました 脂質と冠動脈疾患リスクに関しては これまで説明してきたように LDL-CやHDL-Cの影響は認識されていましたが 中性脂肪 特に食後TG値との関連は ほとんど認知されていませんでした しかし 中性脂肪も侮れない 食後TG値に注意を払わないで LDL-CやHDL-Cばかりに気をとられていると 足元をすくわれる危険があります @食後高脂血症はLDL-Cとは無関係な危険因子 あとで解説しますが スタチンというLDL-C値を下げる薬剤により 冠動脈疾患の発症率は約20~30%も 低下させることができますが 逆にいえば 最大30%しか低下させることができない ということで 残りの70%を減らすためには 食後高TG値にも注意する必要があるのです たとえLDL-C値が基準値内にあっても 食後TG値が高ければ 冠動脈疾患発症の独立したリスク因子になります つまり食後TG値の高値は LDL-Cとは無関係な危険因子なのです <食後高脂血症が冠動脈疾患の発症を誘導する機序> いくつかの理由が考えられています @慢性炎症が起こる 脂質の高値により 炎症反応が惹起され それが遷延化し慢性炎症になり 動脈硬化が進んで 発症リスクが高まる可能性があります @HDL-Cの低下 食後TG値が高値だと HDL-C値が低下するために 動脈硬化が進展するリスクがあります HDLは リポタンパク代謝の最終段階で形成されるので HDLが形成されるには カイロミクロンが分解され リポタンパクの代謝が進む必要がありますが 食後TG値高値の状態では TGを多く含んだカイロミクロン カイロミクロンレムナントが分解されず 回路が回らず HDLの形成に至らないと考えられています @カイロミクロンレムナントの危険性 たまったカイロミクロンレムナントは 酸化LDLやsdLDLと同じくらい 動脈硬化の発症・進展に 悪影響を及ぼします カイロミクロンレムナントは 小粒子なので 容易に血管壁内に侵入でき 酸化変性を受けずに マクロファージに取り込まれ マクロファージを泡沫化させて 動脈硬化誘導します 酸化されなくても マクロファージを泡沫化できるので たちが悪い またカイロミクロンレムナントが多量にあると sdLDLが増加します カイロミクロンレムナントのTGが コレステロールエステル転送タンパク(CETP)の働きで LDLに添加され TGが豊富なTG rich LDLが形成され これにリポタンパクリパーゼなどが作用して sdLDLが作られます sdLDLは既に解説したように 動脈硬化を進展させますから困ります <食後高TG値が起こってくる機序> 原因としていちばん考えられるのが 脂質を多く含む食物の過食です 脂質摂取量が過剰になると 食後の血中カイロミクロンやカイロミクロンレムナントが 増えて持続します 厄介なことに TGは脂質以外でも上昇します たとえば 果物に多く含まれる果糖は 血糖値には影響を及ぼしませんが TGは上昇させやすいので要注意です さらに厄介なのは 糖尿病や耐糖能障害が 食後高TG値を誘導することですが 糖尿病と食後高TG値の関連は 話し始めると長くなりますので 次回に詳しく解説することにします
高橋医院