脂肪組織以外の臓器に
脂肪が溜まり
機能異常が生じてきてしまう
異所性脂肪について説明しましたが

さまざまな臓器に脂肪が溜まると 
どのような障害が生じてくるのでしょう?


<肝臓での異所性脂肪>

肝臓の生理的な働きは

栄養素が足りない状況では
グリコーゲンの分解や糖新生により 
糖を全身に供給し

肝臓での糖新生とその全身への影響を示した図

栄養素が過剰な状況では 
インスリンの作用により
肝内に糖を取り込みグリコーゲンとして蓄積し

さらに過剰な糖質がある場合は 
脂質に変換して蓄えます


肝臓でのグリコーゲン蓄積を示す図


しかし 肝臓に異所性脂肪蓄積が起こると

@グリコーゲンの合成能が低下します

するとグリコーゲンの備蓄量が減るので
全身に糖を補給できなくなり

筋肉などで 自らを壊して糖質を供給する
糖新生が起こりやすくなります

その結果
筋肉量が減少し基礎代謝が落ちて  
さらに太りやすい体質になってしまう


肝臓のインスリン抵抗性が及ぼす悪影響をまとめた図

@肝細胞のインスリン抵抗性が生じます

肝細胞に糖を取り込みにくくなり 
血糖値が高い状態が維持され

さらに 
グリコーゲンの合成能も一段と低下します

インスリン抵抗性が生じる過程には

遊離脂肪酸により誘導される
インスリン受容体からの
情報伝達分子の機能障害

が関与すると考えられています

遊離脂肪酸によるインスリン抵抗性誘導機序を示した図

@肝臓における異所性脂肪蓄積としての
 NAFLD・NASH

肝臓に異所性脂肪が蓄積して起こる病態は
既にご説明したNAFLD・NASHが有名ですが

肝臓での異所性脂肪蓄積としてのNAFLD・NASHを説明する図

これらの病態で 
糖尿病生活習慣病が合併しやすいのは
上述した異所性脂肪蓄積によるところが大きいと
考えられています


<骨格筋での異所性脂肪>

過剰な栄養摂取により
脂肪組織からあふれ出た遊離脂肪酸は
肝臓と同様に
骨格筋にも異所性に蓄積します

遊離脂肪酸が骨格筋のインスリン抵抗性を誘導する機序の説明図

@インスリン抵抗性の誘導

異所性脂肪の蓄積は
筋肉への糖の取り込みの低下=インスリン抵抗性を
惹起します

そのため 
血糖値が高い状態が維持されてしまうし
グリコーゲンの合成も抑制されてしまいます

遊離脂肪酸が骨格筋のインスリン抵抗性を誘導する機序の説明図・その2


骨格筋でインスリン抵抗性発現は
肝臓と同様に

インスリン受容体から細胞内への
シグナル伝達分子の働きが
遊離脂肪酸により
障害されるためと考えられています

@骨格筋での異所性脂肪蓄積を亢進させる要因

*運動不足 高脂肪食

*それらにより生じる肥満が誘導する
 低アディポネクチン血症

などが想定されています

ですから
筋トレなどを行い
骨格筋内の脂肪蓄積量が減ると
インスリン抵抗性も改善するとされています

無酸素トレーニングは 
基礎代謝を上げるだけでなく
骨格筋のインスリン抵抗性改善にも
役立っているのですね


<肝臓・骨格筋の異所性脂肪蓄積と 食事・運動療法>

興味深いことに

肝臓や骨格筋における異所性脂肪蓄積量は
内臓脂肪量とは必ずしも相関しません

ですから
肥満がなくても 
運動不足や高脂肪食だけで
肝臓や骨格筋に異所性脂肪が蓄積し得ます

たとえお腹が出ていなくても
肝臓や筋肉に脂肪がついていることもあるので 
要注意です!


しかし 糖尿病の方が食事療法や運動療法を行うと

食事療法や運動療法を行っている人

たとえ体重減少は少なくても

*食事療法は 肝臓の

*運動療法は 骨格筋の

異所性脂肪蓄積を
著明に減少させることが報告されています

1日に3000~5000歩程度の早歩きを2週間行うだけで
骨格筋の異所性脂肪蓄積量が20%も減るとの
報告もあります

肝臓や骨格筋の異所性脂肪蓄積量が減れば
それぞれのインスリン抵抗性が改善されますから
血糖コントロールに好影響を及ぼすのは 
間違いありません

食事療法 運動療法の効果は 
こんなところにもあるのですね


<心血管系での異所性脂肪>

肝臓や骨格筋だけでなく 
心臓や血管にも異所性脂肪が蓄積します

心臓に蓄積した異所性脂肪の写真

@心血管系での異所性脂肪蓄積による障害が
 生じる機序
 
心血管系での異所性脂肪蓄積による障害は
肝臓や骨格筋と異なり 
インスリン抵抗性が関与しません

遊離脂肪酸は
血管を構成する血管内皮細胞内で 
活性酸素の産生を促進し
内皮細胞機能が障害され 
血管が常に収縮しやすい状態になる

そうすると 
狭心症や心筋梗塞が
起こりやすくなります

@心臓の異所性脂肪蓄積を誘導する因子

糖尿病 メタボリックシンドローム 脂質異常症
などの患者さんで
狭心症などが発症しやすい原因のひとつとして
血管での異所性脂肪蓄積が考えられています

実際 肥満や糖尿病の患者さんでは
心臓への異所性脂肪の蓄積の度合いが
強いことが明らかにされています


肥満や糖尿病の患者さんでは心臓への異所性脂肪の蓄積の度合いが強いことを示すグラフ

@心臓の異所性脂肪の量が多いと
 心筋梗塞を起こしやすい

心筋梗塞を起こした方は 
そうでない方に比べて
心臓の異所性脂肪の量が多いことが
報告されています

心筋梗塞を起こした方は心臓の異所性脂肪の量が多いことを示すグラフ

<膵臓での異所性脂肪>

遊離脂肪酸が過剰になり 
膵臓内に異所性に蓄積し始めると

膵臓内に線維化が起こり
β細胞数が減少してくるので
インスリン分泌能が低下してきます

この現象には
遊離脂肪酸による
膵β細胞の細胞死(アポトーシス)亢進
が関与すると考えられています

遊離脂肪酸によるアポトーシス誘導を示す図

このように 膵臓への異所性脂肪蓄積は
インスリン分泌低下を介して 
ダイレクトに糖尿病発症を促します

各臓器での異所性脂肪蓄積により生じるさまざまな機能障害をまとめた図



異所性脂肪蓄積による
さまざまな臓器での障害について
説明してきましたが

*異所性脂肪蓄積は
 インスリン抵抗性を誘導して
 糖尿病や生活習慣病などの発症につながることが多い

*肥満がなくとも 
 肝臓や骨格筋の異所性脂肪蓄積は起こり得る

といったことが ポイントだと思います


お腹の周りについた脂肪だけでなく
肝臓 骨格筋 心臓 膵臓などの
脂肪蓄積についても
気をつけなければいけない

厄介で 面倒なことです

異所性脂肪が蓄積したさまざまな臓器

将来的には

*過剰に蓄積した内臓脂肪や異所性脂肪を
 皮下脂肪へ分布変換させる薬剤

*内臓脂肪・異所性脂肪の蓄積を
 特異的に阻害する薬剤

などの開発が望まれるところです


しかし よく考えてみましょう

異所性脂肪が蓄積するのは
食べ過ぎや運動不足などの
悪しき生活習慣により

体内に
皮下脂肪の脂肪蓄積量を上回る量の脂肪が
溜まるからです

なにも 
上述したような難しい薬を開発しなくても
生活習慣さえ改善すれば 
異所性脂肪はたまりません

異所性脂肪を蓄積させないための生活習慣をまとめた図

不適切な ”第3の脂肪” による
さまざまな問題が
どうして生じてきたのか?

異所性脂肪は第3の脂肪であることを示す図

これまで説明してきたように
生活習慣病が起こる新たな機序が 
次々に明らかにされてきましたが

改善するための根本対策は 
常に明快なわけで

でも それが難しいのですよね(苦笑)
高橋医院