謡本・うたいぼん
うーん いったい 何語を喋っているのかな、、、 お能の一般的な演目では まずワキが登場して 自己紹介してから 続いてシテが登場して やりとりが始まりますが 初めてお能を観たとき 舞台上でシテとワキが語り合う内容が ほとんど把握できませんでした 彼らが語っているのは 英語でもフランス語でもイタリア語でもなく れっきとした日本語のはずです でも ときどき言葉の切れ端を 認識することができるものの 哀しいかな ふたりの会話の内容をフォローすることは とてもできません 前もってプログラムで あらすじを読んでいたので 多分こんなことを語り合っているのだろうな、、 と想像する程度です そんな状況だと ついつい舞台以外の まわりの観客の様子にも眼が行ってしまいます 客席の照明は オペラやバレエに比べると明るいので 充分観察可能です で ちらちらと見ていると 膝の上に テキストのようなものを開いて 舞台とそのテキストを 交互にみられている観客が 少なくありません 前の席に座られていた 白髪の品の良い感じの和服のおばさまは 携帯式のルーペを用いて テキストをご覧になっていました 何なのかなと興味を持って ルーペで拡大された部分を こっそり覗き込むと うーん これはお経ですか?(笑) 皆さんがみられていたのは 謡本(うたいぼん)と呼ばれる 台本のようなものでした そういえば メサイアなどのオラトリオコンサートでも 会場入口で歌詞の翻訳が配られていて それをめくりながら 英語やドイツ語で歌われている内容を確認しますが 能の舞台は 日本語にもかかわらず 謡本があった方が 舟を漕がずにすみます(苦笑) うん? 書き手が入口でもらい忘れたのかな と不思議に思っていたら 幕間にロビーにあった本屋さんで 謡本が売られているのを発見しました あれは入口で配られるものでなく 皆さん わざわざお家から持参されていたのですね 謡本のデザインは純和風で 和紙が糸で綴られていて ほんのりとお香のようなよい香りもします 客席に漂っていたのは この謡本の香りだったのかと納得です さっそく書き手も購入して なかをのぞいてみると 縦書きに(当り前か:笑) 謡われる詞章が書かれており 上方の余白には 舞台でのシテの様子のイラストなども描かれていて これはまさに台本ですね で 気がついたのが テキストの横に 振り仮名のように記されている ゴミのようなしるし これは何かなと思って 家に帰って調べてみたら この記号は ゴマと呼ばれる音符のようなもので これが付いている部分は謡で 謡の抑揚や旋律を表しているそうで ゴマが付いていないところは セリフだそうです なるほど オラトリオの歌詞対照表よりも よほど親切です 実際のお稽古のときも この謡本がテキストになるのでしょうね それにしても 独特の世界です 書き手はその後 お能を観る際は 売店でその日の演目の謡本を 事前に買うようにしていますが 膝の上に謡本を開いていると なんとなくツウになった気分?(苦笑) ちなみにお値段は バレエのパンフレットと同じくらいです 高いのか安いのかよくわかりません(笑) さて 最後にクイズ 下のテキストの 1行目の最後 上り の下に書かれている文字は 何と読むでしょう? もちろん 書き手は知りませんでした(苦笑) 答えは そうろう・候 ほとんどのセリフの最後に つけられます 拙者 このお話のワキを務める修行僧にて候 という感じ 候の字がくずされて この記号のようになったものと思われ そうろう(笑) この そうろう 役者さんによって 微妙にイントネーションが異なっていて それを聞き比べるのも 何気に面白いのですよ(笑)
高橋医院