書き手を妙な気分にさせた 
NHKのマネー・ワールド 資本主義の未来

3回シリーズの第1回は
「世界の成長は続くのか?」というタイトルでした

その内容を整理して 紹介します

第1回・世界の成長は続くのか? の画面


<世界経済の成長は 止まってしまった>

番組は まず冒頭に 
現在の世界の経済状況について俯瞰します

240年前 アダム・スミスは
人類が欲望のまま経済活動を続ければ 
見えざる手が繁栄に導く 
と説き

アダム・スミスの彫像

その言葉通り 世界の経済は
多少の紆余曲折はあったものの 
継続して成長を続けてきました

しかし ここにきて 
経済成長率がマイナスに転じる国が増え

世界の経済成長率の年次変化を示すグラフ

経済格差の増大 超低金利政策など
お金をめぐって世界に異変が起きている

これまでは 不況を
経済政策 金融政策 景気のサイクルで克服できて
全体としては徐々に成長を続けてきましたが

2008年のリーマン・ショック後は
色々と策を施しても 
一向に経済は上向かない

リーマン・ショックを報じる新聞記事

各国の財務省や中央銀行は
低金利政策で経済は活性化できると思っていましたが
低金利を続けても 経済は上向いてこない

金利と物価上昇率の年次変化を示すグラフ

賃金が下がり 
物価・インフレ率が下がり 
利子率も下がり

経済成長のエンジンが全く働かないという
深刻な異常事態が次々に発生している

つまり 
これまでの一過性の不況とは異なり
現在の経済状況は 
慢性的な病気の様相を呈し 社会を疲弊させている

投資が減り 
若者の失業に繋がるという負の連鎖が生まれ
悲観論が生まれ 
さらに経済が停滞し
中間層が疲弊・没落し始めている

これまでの常識が通用しない
恐ろしく不透明で 
何が起こるかわからない世界になった

<なぜ 資本主義経済の成長は止まったのか?>

では なぜ 
経済成長は止まってしまったのでしょう?

原因はいくつか考えられますが
資本主義の原動力ともいえる 
フロンティアが喪失したことが大きい

これまでは
経済活動の場を 
より外へ より早く より遠くへと広げるために
植民地などのフロンティアを開発することで
経済の成長を維持できていたが

植民地で原住民に対するヨーロッパ人の様子

2000年頃から
世界に経済活動を広げる
物理的な余地がなくなってしまい
先進国の経済は減速してきた

こうしたコンテクストは
水野邦夫さんが
著作で述べられていることを紹介しましたが

書き手としては 
なるほどなるほどと とても納得しています

水野邦夫さんの著作の表紙

で こうした状況を打開するために
アメリカを中心に 
新たなフロンティアである金融空間が創造されました

創造された新たなフロンティアである金融空間を示す図

つまり 実体経済を拡張させるのではなく
国境を越えた為替取引など

マネーがマネーを産む新たな錬金術の世界

とも言えるような 
架空の金融空間が造りだされ

架空の金融空間を見つめる人

それが見事に当たって
1990年代以降 
金融資産は実体経済の3倍以上に膨れ上がった

金融資産が実体経済の3倍以上に膨れ上がったことを示すグラフ

しかし 2008年のリーマン・ショック後は
金融空間の一部は破綻し 
金融資産の増加も頭打ちになり
現代の錬金術にも 
陰りが見え始めてきています

そして 
そんな状況に追い打ちをかけるように
世界的な大企業の不正が 
次々と明らかになってきました

経済の世界に 
不正 腐敗 犯罪が蔓延しているという事実は

不正を行わないと 
これ以上 経済が成長できないという状況を示すもので
経済成長が限界に近づいていることの証しである

フランスのジャック・アタリさんは そう説きます

語るジャック・アタリ

その背景にあるのは
より早く より効率的に より手ごろなものを 
過剰なまでに追及する
利益追求を重んじるあまりの 
行き過ぎたスーパー資本主義

まさに 
弱肉強食のジャングルのような世界である

スーパー資本主義による弱肉強食のジャングルのような世界を表す図

そして スーパー資本主義が行き過ぎて
資本主義が 民主主義や公益を守ることを見失うと 
社会の破滅が始まる

アタリ氏は こう警鐘を鳴らします

<資本主義経済に 将来性はないのか?>

では 世界経済 資本主義の世界は 
本当に行き詰っているのでしょうか?

これまでの歴史を振り返ると
産業革命 電気 エンジンなどの
数々のイノベーション
その時々の経済を飛躍的に成長させてきましたが

産業革命の頃の様子

近年の 
IT技術の革新によるビックデータの蓄積
それに基づく人工知能(AI)の飛躍的進歩が

新たなイノベーションとして
停滞する経済を発展させ得るのではないか?

最近は 第4次産業革命 という言葉を 
よく見聞きしますよね

これまでの産業革命の歴史と第4次産業革命の出現を示す時系列グラフ

資本主義経済が行き詰ったかに見える現代は
まさに 新たな産業革命の時代でもある

こうした AI絡みの論調は 
色々なところで見聞きするようになりました

AIの出現を示す写真

また 
質的に異なる新たな経済活動についても 
紹介しています

これまでの資本主義経済は
モノを生産し それを所有し 
消費を促進することで
成長を続けてきましたが

それとはまったく質が異なる方法論

モノを作らずに 
空間やサービスを共有することで
利益を産もうとする新たな経済システムが
成長の救世主になるのではないか?

20世紀型の古い経済から
より多くの市民が経済の主体となり利益を得る
新たな資本主義が創造されるのではないか?

そうした例として 番組では 
さまざまな分野での
シェアリング・エコノミーの興隆を
レポートしていました

シェアリング・エコノミーの概念図


人類は 新たな成長を見出せるか?

番組は 最後にこう疑問を呈して 
次回に繋げていました

番組全体のメッセージは
既に色々なところで見聞きしているのと似たような内容で
あまり目新しいものはありませんでしたが

でも
こうして資本主義経済の歴史を俯瞰し
現在の資本主義が抱える緒問題をまとめて提示されると

確かに 資本主義経済ってヤバイの? と
実感してしまいます

資本主義を懐疑的に見る人たちの姿

特に アタリ氏の

巨大企業の不正の数々は
資本主義経済の行き詰まりを象徴するものだ

という指摘は なるほどと思いました

その一方
シェアリング・エコノミーについては
勉強不足で知らなかったので 
興味深く見ることができました

さて

人類は資本主義経済を成長させ続けることが 
できるのでしょうか?
高橋医院