能の面とシテのアゴのお話をしましたが

能の大きな特色のひとつである 
の話題を欠いては 
片手落ちですね

能で使用される面

新進気鋭の能楽者の
武田祥照(よしてる)さんの講演会でも

女性の能面(業界ではオモテと呼びます)
の話題が出ましたが

実は書き手には 
女性の能面にまつわる思い出話があります

今でこそ偏屈な書き手ですが 
小さい頃はそれなりに純真でした?(笑)

幼稚園の頃 
両親の寝室でひとり遊びしていた悪ガキは
いつしか遊びに疲れて 
昼寝を貪っていました

ふと気がついて目を覚ますと 
周囲はすでに薄暗くて 
誰もいない

ぼんやりとした感覚 
焦点が定まらない視線

そんなシュールな状況で
悪ガキの視界に飛び込んできたのが

壁に飾ってあった 
若い女性の能面でした

若い女性の能面

そこで悪ガキが直感的に抱いた感情は

美しい、、という恍惚感、、、、

ではなく

とてつもない恐怖! 

でした

冷たくて無表情の能面に見据えられ 
ただ ひたすら怖い!

突然 悪ガキが大泣きしている声が
家中に響き渡り
何事かと心配した家族が
部屋に入ってみると

壁の能面を指差して 
しゃくりあげながら大泣きしている
普段は生意気なガキがいて

それを見て大笑いしている家族の姿を見て 
ガキはさらに大声で泣く

そんな狂言のような光景が 
繰り広げられたのでした(笑)

ちなみに 
純真な悪ガキを泣かせた面の名前は 
万媚(まんび)

万媚(まんび)の説明図

凄い名前です

百や千の媚にも勝るという意味の名前の 
このお面は

若い女性が有する 
自分でも制御できない情念のような想い
その存在に気付き戸惑う乙女心と

そんな情念を凌駕するに至った 
成熟した女性の艶

その両方を 
目元や口元に表現しているそうです

大人になってから 
能装束展で 
再び万媚を見る機会がありましたが

そう言われて観ると
無表情に見える目元や口元が 
確かに何かを語っているようにも見えて

しばらく時間を忘れて 
面の前で立ち続けていました

さすがに書き手も
少しは大人になったようで
そのときは幼少時のように 
万媚を見て泣くことはありませんでしたが

男は 
子供の頃に泣かされた万媚に 
大人になっても泣かされる?

げに恐ろしきは、、、

あ こんなことを書くと 
多方面から非難がきそうですね(苦笑)

ちなみに 
女性の面の話題だけではつまらないので
男性の面のエピソードも紹介しますが

能が流行り始めた頃 
世間では秘かな男色ブームだったそうで

大喝食(おおかっしき) 
小喝食(こかっしき)と呼ばれる
前髪ふさふさの少年の面は

前髪ふさふさの少年の面

特にそちらの世界で 
大人気だったそうです

前髪ふさふさの少年の面2

いやー 能面の世界が 
LGBTの先取りをしていたなんて
さすが能は奥が深いです?

さて 幽玄の美を語るべきなのに
こんなふざけたオチでは申し訳ないので
最後に少し真面目なお話を

実際に能を舞われる方のお話を聞くと

面を掛けるという行為は
役者さんが 
ひとり自分の意識下に入っていくために重要だそうで

面を掛けると
視野が極端に狭くなることもあり

そうすると 
自分の主体性を維持することが困難になり
面に身を託すという気持ちになるそうです

そして 
面を掛けるときに
こめかみのあたりで
紐をしめて固定するそうですが

この行為により 
ある種のトランス状態に入り
能舞台という 
非日常の世界に入り込んでいけるのだそうです

そうか 面を掛けるという行為には 
そういう意味合いがあるのですね

さらに 前回ご紹介したように
面を掛ける位置を上げて
面の下部と役者さんのリアル顎との
コントラストを示して
面と役者さんとの一体感を強調する

うーん やっぱり 
能の世界は奥が深いです、、、(苦笑)
高橋医院