グローバル企業と国家のバトル
資本主義経済の未来を問うた とても興味深かったNHK番組の 「マネー・ワールド 資本主義の未来」 第2回は 「国家 vs. 超巨大グローバル企業」 というタイトルで 超巨大な多国籍企業が 国家を凌駕する現況について レポートしていました <グローバル企業の租税回避> 世界の国々の歳入と 巨大多国籍企業の歳入を 多い順にランキングしていくと 上位100位のなかに 70社もの企業が入ってきて 企業最上位のWalmartは10位にランクされ スペイン オランダ オーストラリアの 国家歳入より稼ぎが大きい ちなみに 日本の企業では TOYOTAが22位につけています で グローバル企業が どのようにして膨大な利益を得ているかというと 現代の錬金術の新たな技は 「租税回避」です グローバル企業は 高収入部門を法人税の安い国の現地法人として 法人税の安い国 例えばアイルランド(12.5%)などで納税している あくまで合法的な処置だけれど 世界の法人税の1割 25兆円が エスケープされている これは 国家財政にとっては忌々しき事態で 法人税収が減り 福祉公共サービスなどへの再分配ができなくなるので 消費税を上げざるを得なくなり 一般庶民の生活にしわ寄せが行く 企業が得た利益の一部を 適切に社会に再分配して 人々の生活の益にするのが 資本主義の健全な発展には不可欠なのに その原理が働かなくなっているのが まさに現況なのです 一方で 国家は グローバル企業を自国に呼び込み 自国内に雇用を生み出させるために 法人税の引き下げ競争をする 例えば 書き手が昨年の夏休みで訪れたアイルランドは 法人税が12.5%と 他国に比べて極端に低いので (棒グラフのいちばん右端) Appleをはじめとするグローバル企業が 本社を構えています 実は さらに低い法人税しか払っていないことが発覚し EUはアイルランドとAppleに 追徴課税の訴訟を起こしてもめています ちなみに 書き手はアイルランドで 現地の何人かのガイドさんたちと この話題について話す機会がありましたが 彼等は アイルランドのような小国は そうしたことでもしないと 世界経済のなかで生き残っていけないわけで そこにEUが難癖をつけてくるのは 弱い者いじめだ と 語っていました なるほどねえ、、、 <巨大グローバル企業が国家を訴えて裁判を起こす時代> さらに近年 巨大グローバル企業は 進出した国の対応により 企業がビジネスを計画通りにできず 利益を得られなくなったときに 企業は損失を国に請求することができる というISD条項を逆手に取り 現在 109ヶ国で700件あまりの裁判を起こしていて その損害賠償額が巨大化し 南米などの小国では 国家財政に深刻な打撃を及ぼしているそうです 一方で 企業にとって好条件の経済特区を設営して そこでは 進出してくる企業に 行政まで任せてしまうという かなり極端な経済政策をとる小国も 紹介されていました このどちらの状況も 書き手は知らなかったので びっくりしました そういえば 日本の国会でも討議されていたTPP そうした企業により 訴訟を起こされるリスクがあることが 反対派から指摘されていました 幸か不幸か トランプの登場で 吹っ飛んでしまいましたが(笑) もしスタートしていたら 日本の国家も 痛い目にあっていたのでしょうか? <国家と企業の 地位の逆転> ということで 21世紀になり国と企業の関係が逆転したそうです それまでは 高い関税の設定などにより 国が自国内の企業を育て グローバル企業の出現を拒んでいたのに 国内市場が飽和状態になったため 市場を国内から世界に広げる政策に変え 新自由主義のもと 企業に国境を越える大きな自由が 与えられました その結果 新たな巨大なグローバル企業が 世界を席巻するようになり 企業が国を選ぶ時代になってきたのです つまり 国民国家という体制のもとに生まれた 資本主義経済や企業が 新自由主義による規制緩和などで 一皮むけてグローバル化したのに 国家システムは 硬直化したままで柔軟な対応がとれないので グローバル化の波に対応できず 自らが生んだ資本主義や巨大企業を コントロールできない状況が生まれてきた このままでは 国家はどんどん内向き志向になってしまい 社会では 他人の利益は自分の利益につながらない という考え方が広まり 経済紛争や政治的紛争のリスクを 生み出しかねない というのです うーん これまで 国家とグローバル企業の関係なんて 正直言って想像したことすらなかったので とても勉強になりました 書き手は グローバリズムは 経済を成長させるかもしれないけれど 世界の文化を画一化させてしまうという というイメージがあり あまり好印象を持っていなかったのですが その反動で 国や社会の雰囲気が内向化するというのは それはそれで 厄介で危険な状況なのではないかと思っています <国家の役割は変わるべきなのか?> こうした状況への対応策として EUや国連を越えた 世界政府のような組織を形成して 世界規模で 財政赤字から環境問題までを コントロールする そんな新たな国家像を 模索する動きがあるようです フランスのジャック・アタリさんは マジで そうしたアイデアを考えているようですが うーん どうなのかな? EUですら こんなにぎくしゃくした状況なのに 世界国家なんて実現可能なの? 一方 別のタイプの新しい国家像を探る動きもあり 実際に スペイン・アンダルシア地方の小村で 試みられているそうですが 人々の生活の基盤となる衣食住の分野では 資本主義的な競争を制限し ビジネスの対象とせず儲けを持ち込ませず 衣食住以外の分野では 村が積極的にビジネスをあと押しする このように資本主義的な競争を 特定な分野において制限することで 住民の生活の質が保たれ かつ トータルとしては経済成長できている 今の資本主義は 福祉を念頭に置いたものではないから 今のような行きづまりになっている と考えられた年老いた村長さんが このシステムを創められたそうです 今の資本主義は 福祉を念頭に置いたものではない という指摘が 変革を求められる国家の役割を考えるうえで ポイントのように思います 前回のシェアリング・エコノミーもそうでしたが 現状を変えて新たに前に進もうという動きは 着実にあるものなのですね その点も とても印象深く勉強になりました
高橋医院