危険な腹痛
腹痛の程度はさまざまで その原因も多岐にわたりますが すぐに医療機関を受診した方がよい腹痛は 下記のようなタイプです *突然 お腹がはげしく痛みだしたとき *今まで経験したことのない痛みや 普段の腹痛とは異なるとき *もどした物や大便に 血液がまじっているとき *お腹にしこりがあるとき *尿が濃くなったり 体が黄色くなったとき *下痢や便秘をともなうとき *体重の減少をともなうとき *発熱をともなうとき *腹痛は軽いが 最近 健康診断をうけていないとき こうした場合は 放っておかずに すぐに受診してください 最後に 日常の診療で遭遇することが多い 危険な腹痛を呈する 代表的な病気について説明します <急性虫垂炎> いわゆる盲腸です 盲腸につながっている 虫垂という小さな臓器に 感染・炎症が起きた状態で 最初は 激しい胃痛 おう吐 食欲不振などの症状で 始まることがあり その時点では 急性胃腸炎と診断されることも少なくありません しばらくしてから 右下腹部に痛みが移動してきて そこで初めて虫垂炎とわかることがあるので 要注意です 虫垂炎では 痛みが嘔気に先行することが多く 痛みより先に嘔気があると 胃腸炎のことが多いようです 右下腹部の痛みが歩くと増悪する場合も 虫垂炎を疑います <大腸憩室炎> 大腸憩室とは 大腸粘膜の一部が 腸管内圧の上昇や腸管壁の脆弱性のために 囊状・風船状に腸壁外に突出した状態です 年齢とともに増加し 憩室がある人は 40歳以下では10%以下ですが 70歳代では50%で 80歳以上では約70%に及びます この憩室に 何らかの原因で炎症が合併したのが大腸憩室炎で 大腸憩室があっても ほとんどは無症状ですが 約5%が大腸憩室炎を起こし 憩室内の細菌感染や虚血性変化により 限局性の痛みを感じます 最も一般的な症状は 限局した腹痛と圧痛 (お腹を押さえたときの痛み)で 腹痛は 初期には良くなったり悪くなったりを 繰り返すことが多く 次第に持続した痛みへと変化します 日本では 比較的軽症とされる右側大腸憩室炎 (盲腸と上行結腸が中心)が 多いとされていましたが 最近では欧米と同様の 重症化しやすい 左側大腸憩室炎(S状結腸に多い)が増えています 軽症で合併症がない場合は 絶食と点滴および抗菌薬投与によって 保存的に治療します 抗菌薬は キノロンやβラクタマーゼ阻害薬配合剤が 投与されることが多く 抗菌薬投与は7~10日間継続することが 推奨されています 再発することが多いので 一旦症状が落ち着いたとしても 慎重な経過観察が必要です 憩室症のある人は 普段から腸管の圧が高くならないよう 下剤の服用を最小限にして 食物繊維の多い食事を心がけることが大切です 大腸憩室炎は 強い限局した腹痛の原因として 比較的高頻度にみられます <虚血性腸炎> 動脈硬化や腸管内圧の亢進によって 腸管の虚血が起きて生ずる粘膜傷害で 血圧低下 動脈硬化などの血管側因子と 腸管内圧亢進などの腸管側因子がからみあい 腸粘膜あるいは腸管壁の血流低下を引き起こして 虚血状態が作られます その結果 発赤 出血 浮腫 潰瘍などがみられます 高齢者に多い病気ですが 最近は便秘のひどい若い女性にもみられます 急激な腹痛と血便・下痢が典型的な症状で 突然 強い下腹部痛が出現し その後下痢になり 徐々に新鮮血の血性下痢がみられます 発症時間がはっきりしていて 左下腹部に痛みが起こることが多く 約半数に 悪心 嘔吐 発熱が認められることもあります 多くは軽症の一過性型で 数日で症状はおさまり 下血も改善し 予後は良好です 軽症の場合 薬物治療は必要とせず 腸管の安静を保つため 絶食 輸液を行います 日頃から 動脈硬化や便秘を予防するような食生活や 適度な運動を心がけることが大切です
高橋医院