最後に 
インスリンの話とは少し趣が異なりますが

インスリンの脂肪細胞への作用の解説でご紹介した
ホルモン感受性リパーゼ(HSL)と
運動の関係 について説明します


@HSLは脂肪を分解して痩せさせる酵素

まず HSLについて簡単におさらいすると

アドレナリン ノルアドレナリンなどの
ホルモンの作用により活性化する
脂肪細胞内に存在する酵素で

活性化されると
脂肪細胞内の中性脂肪を
遊離脂肪酸とグリセリンに分解します

つまり 
脂肪を分解してくれる酵素で

実際にHSLは 
痩せるために有用な酵素と言われています


HSLが痩せるために有用な酵素と呼ばれる理由を説明した図

さて HSLが活性化される場合は 
空腹時と運動時があります


@空腹時のHSL活性化機序

空腹時(低血糖時)のHSL活性化には 
グルカゴンが関与します

膵臓からグルカゴンが分泌され 
HSLに働きかけ脂肪の分解を促すのです

グルカゴンがHSLに働きかけ脂肪の分解を促す過程を示す図

ちなみに
グルカゴンには 
血糖値が下がり過ぎないようにする働きもあり
血糖値維持のために 
肝臓内のグリコーゲンをグルコースに分解して
血中に放出しますが

最近はグルカゴンの糖尿病の病態への関与が
注目されていることは
既にご紹介したとおりです


グルカゴンの糖尿病の病態への関与を解説した図


@運動時のHSL活性化機序

一方 運動時のHSLの活性化には
成長ホルモン アドレナリン
などが関与します

筋トレなどの無酸素運動の直後は 
交感神経が優位になり
成長ホルモン 
アドレナリン ノルアドレナリンなどが分泌され
これらがHSLに働きかけます


アドレナリン ノルアドレナリンなどがHSLに働きかける過程を示す図


@無酸素運動を有酸素運動の前にした方が良い理由
 
さて 中性脂肪から分解され
血中に放出された遊離脂肪酸は
有酸素運動によって燃焼しないと 
脂肪細胞を減らすことはできません

有酸素運動で分泌されるホルモンがHSLを介して脂肪を燃焼させる過程を示す図

また 
有酸素運動により
脂肪組織の中性脂肪を燃やすには
HSLの活性化に20分ほどかかるので
最低でも20分間以上の運動の持続が必要
とされています


20分間以上の運動の持続が必要とされる理由を説明した図

しかし
無酸素運動により
HSLを前もって活性化しておけば
その後の有酸素運動では 
早期から中性脂肪を燃やすことが出来ます

こうした理由から

脂肪組織に蓄積した中性脂肪を
効率よく燃やすためには

筋トレなどの無酸素運動の後に 
有酸素運動を続けて行うと
より効果的と言われています

このあたりは 
ダイエット目的で運動をされようとしたことがある方は
いろいろな本で読まれたことがあると思います

無酸素運動の後に有酸素運動を続けて行うとより効果的である理由を説明した図

@朝起きた直後の有酸素運動が有効な理由

一方 朝起きた直後は 
空腹状態で低血糖なので

既にグルカゴンがHSLを活性化して
脂肪細胞の中性脂肪が分解されて 
脂肪酸が血液中に多く流れています

このときに
ウォーキングなどの有酸素運動をすれば
通常は脂肪組織の中性脂肪の分解が始まるのに
20分程度かかるところを
運動開始直後から分解できるので 
より効果的とされています


@食後は有酸素運動に不向きな理由

逆に 食べた直後から2時間以内
グルカゴンが抑制され 
インスリンが分泌されているので

インスリンの抑制作用により
HSLが働きにくく
脂肪分解が目的の有酸素運動には
不向きと考えられています

食べた直後から2時間以内は有酸素運動には不向きとされる理由を説明した図

ということで

無酸素運動と有酸素運動を
同じ機会に行う場合

どちらを先にした方が 
より効率的に体内の脂肪が燃やせるか?

どのような状態で有酸素運動を行うと
より効率的に体内の脂肪を燃やすことが出来るか?

ホルモン感受性リパーゼは 
この両方の問いを解くカギになり
ダイエットと運動にとても深く関与しているのです

無酸素運動と有酸素運動の優先性を解説した図

たまには 実用的な解説もするわけです(苦笑)


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