糖毒性
インスリン分泌低下や インスリン抵抗性により 血糖値が高い状態が続くと 細胞がダメージを受けてしまいます こうした状態を 糖毒性 と呼びます <高血糖による糖毒性が さらに高血糖を誘導する悪循環> 糖毒性は 糖尿病のコントロールが悪いときに 起こりうる病態で 高血糖自体が *β細胞のインスリン分泌能力を低下させ *GLUT4の活性を低下させて インスリン抵抗性を誘導し 更なる高血糖を招いて 悪循環を形成してしまいます <糖毒性によりインスリン分泌低下が起こる> 糖毒性は 年単位で経過する 高血糖状態の持続により惹起され β細胞の減少・線維化 β細胞内の分泌顆粒の減少を起こし インスリン分泌低下が起こります <糖毒性が起こる機序> @β細胞内の酸化ストレスの亢進 高血糖状態が持続すると 酸化ストレスが誘導されますが β細胞には 抗酸化物質が少なく 酸化ストレスに脆弱なうえ 活性酸素により損傷を受けたDNAの修復能も 低いとされています また 酸化ストレスは インスリン遺伝子そのものの発現を低下させたり β細胞のアポトーシスを誘導することが 明らかにされています @インクレチン・GLP-1の低下 インクレチンは β細胞上に存在する受容体に結合して インスリン分泌促進 β細胞のアポトーシス抑制 β細胞増殖促進 などの機能を発揮しますが 糖尿病では インクレチンの受容体が 発現低下しているうえに 高血糖自体が インクレチン受容体発現を 低下させている可能性 があります @小胞体ストレス応答 小胞体は 細胞内で造られるタンパク質の品質管理を 行っている細胞内小器官ですが 高血糖状態が持続して β細胞でのインスリン合成が増加すると 小胞体でのタンパク質品質管理が インスリン新規産生に追いつかず 未成熟のインスリンが蓄積して 小胞体ストレス応答が生じます 小胞体ストレス応答により β細胞はアポトーシスを起こして 死んでしまいます 小胞体の働きと 小胞体ストレスの病気への関与は また 稿を改めて解説します @UDP-GlcNAcによるタンパク質の糖化 さらに高血糖状態が続くと UDP-GlcNAc という物質が産生されますが UDP-GlcNAcは タンパク質のセリン残基に結合してグリコシル化し こうして糖化されたタンパク質は しばしば機能異常を呈し β細胞の機能不全や インスリン抵抗性を惹起して 悪循環を誘導します @炎症性サイトカイン 高血糖状態では 血中にIL-1β IL-6 TNFαなどの 炎症性サイトカインが増加し インスリン抵抗性 インスリン分泌低下 β細胞のアポトーシス誘導などに 関与するとされています <糖毒性を解除する薬剤> このように 糖毒性により β細胞の状態が悪化して 悪循環が生じるので 糖毒性の解除が 重要な治療戦略になります その観点から注目されているのが 新たな糖尿病治療薬の SGLT-2阻害薬 です 腎臓の糸球体で 濾過されたグルコースは 近位尿細管で再吸収されますが その能動的再吸収にかかわるのが SGLT-2という分子で SGLT-2により 約90%のグルコースが再吸収されます SGLT-2阻害薬は このSGLT-2を阻害することにより グルコースの再吸収を抑制し 尿中にグルコースを排泄させて 高血糖を是正する薬です インスリン分泌とは 全く関係ない機序による 血糖降下作用であることから すみやかに糖毒性を解除できる可能性があり 注目されています また SGLT-2阻害薬により インスリン分泌能 インスリン抵抗性の改善が見られ 体重減少 脂質プロファイルの改善 尿酸値の低下も観察されています 当院でも 糖毒性の存在が疑われる患者さんには SGLT-2阻害剤を投与し 良好なコントロールが得られている方が たくさんおられます
高橋医院