医者の言葉
言葉が持つ響き というのは 意外に大切だと思います つい最近も 笑顔で 「排除」 なんて 言葉を口走ってしまったために せっかくうまく運びそうだった流れを 一言で変化させてしまった方も おられるようですが? あ 今日はこういうお話を したいのではなくて (でも 22日夜は楽しみですね!笑) いきなり閑話休題で恐縮ですが 古式ゆかしく 言霊(ことだま)と評するほどの 大げさなことでもありませんが 自分が発した言葉のニュアンスが 聞く人にきちんと伝わっているか? 確かに そうしたことは 日常生活では あまり意識しないかもしれませんが こと 医者と患者さんとの コミュニュケーションにおいては 患者さんが気になる病状に関する言葉を 発する側である医者は 充分に注意した方がよいと 自戒しています さて 日本遺伝学会が 優性遺伝 劣性遺伝 という遺伝に関する用語を改定すると 発表しました 優性遺伝 劣性遺伝 読み手の皆さんは 聞かれたことがあるでしょうか? 遺伝という現象は 親から子に遺伝子が 伝えられることで起こります DNAから成る遺伝子は かたまりを作り 染色体を形成します 染色体は *男女の性別を規定する 性染色体(X染色体 Y染色体)と *それ以外の常染色体 に分類されます ヒトは 2本の性染色体(XXなら女 XYなら男) 22対・44本の常染色体を有しています 母の卵子に 父の精子が受精して 受精卵が作られますが そのとき 母親の染色体 父親の染色体を それぞれ1本ずつ受け継いで それが子供の染色体となります さて 染色体の一部の遺伝子に 変異がある場合 なんらかの症状が出ることがありますが 症状が出るか出ないかは 少し複雑なルールで決められています 父 母から受け継いだ 1対・2本の常染色体のうち いずれか一方の常染色体の遺伝子にだけ 変異があった場合 その遺伝子変異による症状が出る遺伝形式を 常染色体優性遺伝 症状が出ない遺伝形式を 常染色体劣性遺伝 と呼びます どうして このような現象がみられるかというと 遺伝子にはその特徴が 表現されやすい遺伝子 されにくい遺伝子 があるからです 血液型を例にして説明すると わかりやすいかもしれません A型遺伝子 B型遺伝子は 特徴が表現されやすい遺伝子で O型遺伝子は 表現されにくい遺伝子です ですから 図のように お父さんが A型 O型の遺伝子を有していると 血液型はA型 お母さんが B型 O型の遺伝子を有していると 血液型はB型 その お父さん お母さんから生まれた子供が お父さんのA型 お母さんのB型を引き継ぐと 血液型はAB型 お父さんのA型 お母さんのO型を引き継ぐと 血液型はA型 お父さんのO型 お母さんのB型を引き継ぐと 血液型はB型 お父さんのO型 お母さんのO型を引き継ぐと 血液型はO型 つまり A型 B型の遺伝子は 遺伝子がひとつあれば 血液型はA型あるいはB型になりますが O型の遺伝子は 両親のO型遺伝子を両方引き継がないと 血液型はO型になりません ということで A型 B型の遺伝子は 特徴が表現されやすいので 優性遺伝子 O型の遺伝子は 表現されにくいので 劣性遺伝子 と呼ばれます さて 血液型の遺伝子だけでなく 子供は全ての遺伝子がのっかった染色体を 両親から1本ずつもらいます そして血液型と同じように 優勢 劣勢遺伝のシステムにより 特徴が引き継がれます つまり 両親から1本ずつもらった遺伝子のうち そのうち1本の染色体の遺伝子に 変異があっても もう1本の染色体の遺伝子に 変異がなければ 変異による症状が 出現しないことがあります こうした場合は 劣性遺伝になります 変異による症状が出にくいので 劣性と呼ばれてきました しかし 優性遺伝では 両親の遺伝子のいずれか1本に異常があれば 症状が出てしまう 症状が出やすいので 優性と呼ばれてきました 耳垢がカサカサしているか ジメジメしているかも 優勢・劣性遺伝で規定されています この場合 ジメジメ遺伝子・Aが優性遺伝子 カサカサ遺伝子・aが劣性遺伝子です 優性遺伝 劣性遺伝 と呼ばれる仕組みを ご理解いただけたでしょうか? で 医療関係者は こうしたことを勉強しているので ごく普通に 「ああ それは優性遺伝ですよ」とか 「劣性遺伝ですね」と言いますし そのままの単語を用いて 患者さんに説明することもある ですが そうした単語を初めて聞く 患者さんや家族の方は 医者から「劣性遺伝」と言われて えっ 遺伝的に劣っているの? と勘違いされることが有り得るのです 患者さんや家族の方が そんな風に感じられるなんて 医療関係者は思ってもいないし 想像すらしていないのですよ だけど 医療関係者と患者さんとの間で そのような医者が発した言葉に関する 認識の違いが 起こり得る だから 遺伝学会は 優性遺伝 劣性遺伝 という用語を使うのをやめて 顕性遺伝 潜性遺伝 という呼び方にしましょう と取り決めたのです 顕れやすい 潜みやすい 確かに 優性・劣性よりは 言葉の響きが柔らかいように感じます それ以外にも 変異 や 異常 という単語は バイアスがかかった認識をされる 危険性があるとのことで 多様性 という単語に変更されました こうした 専門家と素人の間での会話で生じうるリスクに 気がつくことは とても大事だと思います そのような感性が 医療従事者には不可欠でしょう 自分が語った言葉が 患者さんにきちんと理解されているか? 知らぬ間に患者さんを 不安にさせていないか? 自戒 自戒です 正直言って お恥ずかしいことに この歳になっても 患者さんにちゃんと意図が伝わったかな? と ときおり 不安になることもあります(苦笑) 患者さんの皆さんも 医者との会話で 腑に落ちないことがあれば すぐに遠慮なく質問してくださいね!
高橋医院