食道粘膜の慢性炎症
胃食道逆流症の病態で 最近 注目されているのが 食道粘膜の慢性炎症 と 知覚過敏 です 今日はそのうちの慢性炎症について説明します <NERDでは眼では見えない 組織レベルでの粘膜内慢性炎症が起きている> 内視鏡検査では 食道にびらんが認められない 非びらん性胃食道逆流症(NERD)が 実はGERDの半数以上を占めていることを 紹介しましたが NERDで自覚症状が起こる原因として 食道粘膜で生じている 顕微鏡レベルの微細な炎症 が 注目されています @胃食道逆流症の食道粘膜で 顕微鏡下で観察される組織学的変化 *粘膜の底にある基底細胞の過形成を認める *粘膜内の上皮細胞間の隙間が広がる *好中球 リンパ球 マクロファージなどの 細胞浸潤を認める といった所見ですが こうした変化が 酸の暴露により生じることが 動物実験で明らかにされました @これまで考えられて来た 粘膜炎症が起こる機序 *逆流してきた酸などが 粘膜表面を傷つけ その傷害が表面から深部に進み その過程で 細胞間のバリアーが破壊される *それを修復するために 好中球やリンパ球が集まってくる *集まってきた好中球やリンパ球が サイトカイン ケモカインといった 炎症誘導物質を産生し 粘膜の炎症が起こる というストーリーが考えられてきました つまり 酸が食道粘膜を破壊することが 根本的な原因で その結果として 食道粘膜内に炎症が生じる というアイデアです @食道粘膜を直接破壊しなくても炎症は起こる しかし 新たな検討により 食道粘膜が 過剰量の胃酸 ペプシン トリプシンに暴露されると 従来の考え方とは異なる機序により 慢性的な粘膜炎症が生じることが 明らかになってきました *食道粘膜は酸などに暴露されると 粘膜内で食道上皮内の細胞から IL-8が産生される *ついで IL-6 MIPなどの 炎症性サイトカイン ケモカイン産生が 誘導される *それらの作用で 粘膜内に好中球やリンパ球が呼び寄せられ 浸潤した炎症性細胞が 粘膜内でさらにIL-8などを産生するので 細胞浸潤をともなう炎症が 段階的かつ慢性的に進行していく そうした現象が起こっていることが 判明したのです そして 胸やけ症状の強さは 粘膜内への好中球やリンパ球の密度と 相関することも 明らかにされました つまり 食道粘膜内で起きている炎症は 結果ではなく 原因なのです @IL-8が悪さしている? さらに興味深いことに *酸の刺激で 粘膜内で最初に大量にIL-8を産生する細胞は 粘膜の角化細胞(ケラチノサイト) であることが明らかにされ *その作用で粘膜内に浸潤してきた好中球やリンパ球が 粘膜内でIL-8やIL-6などを産生し *さらにそれに続いて 粘膜内の線維芽細胞 上皮細胞などが 炎症性サイトカイン ケモカインを産生する こうしたカスケードが存在することも判明しました 粘膜内でのIL-8の量は 炎症の強さと相関し PPI治療により減少することも報告されています こうした現象は 目でみえるびらんが形成される前から 生じていることが明らかにされました つまり 胃食道逆流症で生じている粘膜傷害の 根本的な原因は 酸への暴露により 粘膜内で誘導された慢性炎症である という病態のとらえ方が トレンドになっています さらに興味深いことがわかってきていますが 話が長くなりそうなので 次回に続けます
高橋医院