胃食道逆流症の病態で 
最近 注目されているのが

食道粘膜の慢性炎症 と 知覚過敏 です

今日はそのうちの慢性炎症について説明します

<NERDでは眼では見えない
 組織レベルでの粘膜内慢性炎症が起きている>

内視鏡検査では
食道にびらんが認められない 
非びらん性胃食道逆流症(NERD)が
実はGERDの半数以上を占めていることを
紹介しましたが

胃食道逆流症の分類を示す図
NERDがGERDの60%を占めることを示すグラフ


NERDで自覚症状が起こる原因として

食道粘膜で生じている
顕微鏡レベルの微細な炎症
が 注目されています

@胃食道逆流症の食道粘膜で 
 顕微鏡下で観察される組織学的変化

*粘膜の底にある基底細胞の過形成を認める

*粘膜内の上皮細胞間の隙間が広がる

*好中球 リンパ球 マクロファージなどの
 細胞浸潤を認める

といった所見ですが

こうした変化が 酸の暴露により生じることが 
動物実験で明らかにされました

@これまで考えられて来た 粘膜炎症が起こる機序

*逆流してきた酸などが 粘膜表面を傷つけ 
 その傷害が表面から深部に進み
 その過程で 細胞間のバリアーが破壊される

*それを修復するために 
 好中球やリンパ球が集まってくる

*集まってきた好中球やリンパ球が
 サイトカイン ケモカインといった
 炎症誘導物質を産生し
 粘膜の炎症が起こる

というストーリーが考えられてきました

つまり 
酸が食道粘膜を破壊することが
根本的な原因で 
その結果として 食道粘膜内に炎症が生じる
というアイデアです


@食道粘膜を直接破壊しなくても炎症は起こる

しかし 新たな検討により

食道粘膜が
過剰量の胃酸 ペプシン トリプシンに暴露されると
従来の考え方とは異なる機序により
慢性的な粘膜炎症が生じることが
明らかになってきました

*食道粘膜は酸などに暴露されると
 粘膜内で食道上皮内の細胞から 
 IL-8が産生される

*ついで IL-6 MIPなどの
 炎症性サイトカイン ケモカイン産生が
 誘導される

*それらの作用で 
 粘膜内に好中球やリンパ球が呼び寄せられ
 浸潤した炎症性細胞が 
 粘膜内でさらにIL-8などを産生するので
 細胞浸潤をともなう炎症が 
 段階的かつ慢性的に進行していく

そうした現象が起こっていることが 
判明したのです

そして 
胸やけ症状の強さは
粘膜内への好中球やリンパ球の密度と
相関することも
明らかにされました

つまり
食道粘膜内で起きている炎症は 
結果ではなく 原因なのです


@IL-8が悪さしている?

さらに興味深いことに

*酸の刺激で 
 粘膜内で最初に大量にIL-8を産生する細胞は
 粘膜の角化細胞(ケラチノサイト)
 であることが明らかにされ

*その作用で粘膜内に浸潤してきた好中球やリンパ球が
 粘膜内でIL-8やIL-6などを産生し

*さらにそれに続いて 
 粘膜内の線維芽細胞 上皮細胞などが
 炎症性サイトカイン ケモカインを産生する

こうしたカスケードが存在することも判明しました

粘膜内でのIL-8の量は
炎症の強さと相関し 
PPI治療により減少することも報告されています

こうした現象は
目でみえるびらんが形成される前から
生じていることが明らかにされました

つまり

胃食道逆流症で生じている粘膜傷害の
根本的な原因は
酸への暴露により 
粘膜内で誘導された慢性炎症である

という病態のとらえ方が トレンドになっています

さらに興味深いことがわかってきていますが
話が長くなりそうなので 次回に続けます





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