胃酸の逆流が諸悪の根源
どうして 胃食道逆流症が起こるのでしょう? 今日は その病態生理について解説します <胃酸の逆流の存在が 根源的な原因> 胃食道逆流症は 食道に胃酸が逆流することにより起こります 逆流してきた胃酸のために 食道扁平上皮層が消化され 食道粘膜に炎症が起こり びらんや潰瘍に至ります また 胃酸だけでなく 逆流してきた胃液に含まれる タンパク分解酵素ペプシンも 食道粘膜障害に関与します 健常人では 食道内がpH4未満の酸性である時間 (酸暴露時間)は 1日のうちの4% 1時間以内ですが びらん性胃食道逆流症の患者さんでは 酸暴露時間が健常者より有意に延長しており 食道炎の重症度は 酸暴露時間の長さに相関することが 明らかにされています <どうして胃酸の逆流が起こるか?> @胃酸の分泌が増えすぎる それには 既にご説明したように *食生活の欧米化や 生活習慣の変化 *ピロリ菌感染率の低下 などが関与します @下部食道括約筋(LES)の機能低下 胃から食道への逆流を防ぐ 物理的な仕組みが働かなくなるわけですが 特に問題になるのが 嚥下とは関係しない 突然の一過性LES弛緩(TLESR)です 暴飲暴食 高脂肪食で LESの一時的弛緩が起こりやすくなり 胃の動きが悪く 胃内に食物がいつまでも残る人でも 胃の中の圧力が高まり 胃液が上に押し上げられるので 逆流が起こりやすくなります また 重症者では もともとLES圧が低く TLESR以外のときにも 胃酸の逆流が生じます @食道そのものの運動障害 食道の運動が障害されていると 逆流した胃酸が停滞して 胃に戻っていかないのです 食道から胃への酸排出は 嚥下による食道の蠕動運動により行われますが びらん性胃食道逆流症患者さんでは 軽度例の25% 重症例の48%に 蠕動障害がみられます @腹圧の上昇 肥満 便秘 妊娠 衣服による締め付け 腰の曲がりといった 腹圧が高まる状態も胃酸の逆流に深く関与します <食道裂孔ヘルニア> 食道裂孔は 横隔膜を食道が貫いている部分ですが 通常は 横隔膜食道靭帯という バンドで閉められているので 食道と胃の接合部が横隔膜を超えることはありません しかし 何らかの原因で 胃の上部が横隔膜の裂孔を越えて 上がっている状態が生じることがあり こうした病態を 食道裂孔ヘルニアと呼びます 食道裂孔ヘルニアではLES圧低下が生じ 酸逆流の増加 食道からの酸排出遅延をきたし 食道内の酸暴露時間を延長させてしまいます 実際に びらん性胃食道逆流症では 食道裂孔ヘルニア合併が多く 裂孔ヘルニアの存在は 胃食道逆流症発症の危険因子とされています @原因 食道裂孔ヘルニアが起こる原因としては *加齢による前かがみの姿勢による腹圧の増加 *加齢による食道の周囲の筋肉の働きの低下 *肥満による腹圧の増加 などがあり 肥満の人は食道裂孔ヘルニアになりやすく 肥満と胃食道逆流症をつなぐ要因のひとつと 考えられています <胃酸以外の物質の逆流も症状発現の原因になり得る> 前回ご紹介した 食道インピーダンス・pHモニタリング検査により 胃酸以外の物質の食道への逆流が 胃食道逆流症の自覚症状発現に関わることが 明らかになりました 特に 非びらん性タイプの一部のように 酸分泌抑制薬治療で酸分泌を抑制しても 症状が改善しない場合は 酸以外の逆流が関与する可能性が大きいと 推察されます
高橋医院